うみ

リトル・フォレスト 冬・春のうみのレビュー・感想・評価

5.0
卵焼きのちょっと茶色く焼けた表面とか、炭火の上でぷくぷく膨れるチャパティとか,そういう画のひとつひとつがすべて愛おしい.ほんとうに素敵な映画……!

いち子とキッコちゃんとユウ太は,それぞれが自分の農作業と料理に没頭し,見つめあっているのではなくそれぞれの行先に向かって,平行線のように並んでいる感じ.
だけどいつも一緒にいてお互いのことをよく分かっている,穏やかで落ち着く関係性である.

作って食べて片づけて,それらの繰り返しはまったくなにも生み出せていないような気持ちになる.しかし本当はそうではなくて,それらの繰り返しが毎日なのであり生身の生である.この映画はそう思わせてくれて我々を安心させてくれる.

夏,秋,冬と,これまでずっと愛ちゃんの静かなモノローグが続いていた分,春に突如現れるいち子やキッコの大きな感情の波がグサグサ刺さる.それでも「春はやっぱり不安定になるね」とお互いを宥めあうふたり.また一緒に小森に住むことが出来て良かった.迷いながら暮らしていたときと,自分の意思でここで暮らすと決めたとき.季節は毎年繰り返すように見えてもまったく同じ春,同じ夏,同じ秋,同じ冬は存在しない.それと同じように,いち子の目に映る小森での季節は,ガラリと色を変えた鮮やかなものに映っているのではないのだろうか.
うみ

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