監督のモダニストとしての心意気が伝わってくる一本。

イラン映画祭２００４で公開された作品。
200４年に観た映画のなかではマイ・ベスト１です。

制作年度はキアロスタミの『風が吹くまま』と一緒でスタッフもテーマも可成り重なっています。
キアロスタミの作品がクルド人居住地域での珍しいお葬式を取材に来たテレビスタッフが斜に構えたかたちで見る人の生き死にの有様であるのに対し、この映画は同じように人間の生死をテーマにしながら、監督自身が演ずる映画監督が自分の生前葬を日本のテレビ局に頼まれてドキュメンタリーとして撮る、その準備期間に出会う様々な出来事を描いたよりパーソナルな映画になっています。
監督はかつて映画監督として活躍し、キアロスタミの映画のプロデューサーでもあったとのこと。

その葬儀の子細のなかで描かれる祭儀に使われる装飾などが、イスラム的と言うよりイラン的なものであるようで日本のそれと非常に近い出自を持っていそうな雰囲気だったりするのも興味深く、細かい見所は色々とあるのですが、なりより素晴らしいのが、主人公の成功してはいるがままならない人生のありようがそのままイランの中上層階層におけるの近代化の成功と挫折と復興の有様と重なっているところです。

終わり近くでハタミ大統領が「自由に勝る価値はない」と言う意味の９１１以降にふりかえってみればこの上もなくリベラルな演説をしているシーンが映し出され、多分この映画が制作された時期は比較的宗教的な統制が緩かった時期だろうと言うことが伺われるのと同時に、2005年当時でもこのフィルムが海外に貸し出されていたという事実が示すこの国の一筋縄ではいかない複雑な政治状況や文化的な奥深さも知らされる一編ではあります。

重苦しい物語でしたが、物語が煮詰まりそうになると決まってふっと緊張をゆるめるように繰り出される解決策の数々が、大人としての成熟と稚気を併せ持っていて、なんともほほえましくいい感じでした。