トムヤムくん

アマデウスのトムヤムくんのレビュー・感想・評価

アマデウス(1984年製作の映画)
4.7
宮廷音楽家だった老人のサリエリは、天才音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの死について語り始める。

原作はピーター・シェーファーによる戯曲を基にしたブロードウェイの舞台。映画が公開される3年前の1981年には、トニー賞にて演劇作品賞を受賞。

原作舞台が素晴らしいからと言って、必ずしも映画も面白くなるわけではないが、しっかりと本作もアカデミー賞で作品賞や監督賞を含む8部門を受賞している。

個人的には『ゴッドファーザー』や『風と共に去りぬ』と並んで、アカデミー賞の権威を爆上げしている「最高の作品」のひとつだと勝手に思っている。

まず主役となるモーツァルトとサリエリ。彼らはそれぞれ《己の才能に自惚れる天才》と《その才能に嫉妬する努力家・秀才》というキャラクターを兼ね備えており、中世ヨーロッパの堅苦しい世界観とは裏腹に、めちゃくちゃ共感しやすい構図なのが良い。

そして序盤でいきなり、サリエリの口から「かの天才音楽家 モーツァルトは、何者かの手によって殺されたのではないのか?」という疑問を投げかけるところから始まり、早い段階でこれはただの伝記映画ではないことが分からされる。こうしてある種のミステリー仕立てにすることで、最後の最後まで観客の興味を長引かせることに成功している。天才か。

その上で、画面の細部まで洗礼された華やかな建造物や衣装に、80年代とは思えないほど高度な特殊メイク。これらの技術に飲まれることなく作品を彩る役者陣の演技力。そしてモーツァルトの甲高い笑い声と共に奏でられる名曲の数々。もはやコンサートを観ているような高揚感さえ味わえる。

こんなに詰め込まれているのに、それを無駄なくまとめあげるミロス・フォアマンの手腕がとんでもねえ。まるでその場にいるような臨場感を演出しつつ、世界の広さや奥行き、歴史の長さ、奥深さ、そこに生きたモーツァルトがいるかのような現実味まで帯びてくる。

終盤では、モーツァルトの死を巡る謎の答えに向けて、緻密に積み上げられてきたエピソードの数々が雪崩のように崩れ落ちていく。サリエリとモーツァルト、まるで2人と共に人生を歩んだかのような高揚感を得ることができる。これは映画ではない、人生だ!

まじで長尺なのに一瞬たりとも飽きる瞬間がない。完璧すぎる映画だと思う。ちなみに「Amadeus」とは、ラテン語で「神に愛されし者」。