この映画の公開年度のアカデミー作曲賞の受賞者は壇上でのスピーチで言ったそうな
「良かったよ。モーツァルトがノミネートされてなくて。」
音楽に限らず、芸術、スポーツなど「才能」が幅をきかす世界を経験した事のある「神に愛されなかった者達」にとってこの映画は無視できない
向こうにしたら肩が当たった程度の些細な触れ合いなのかもしれないが、こちらにしたら重量級の鈍器で頭蓋をブチ割られたに等しい衝撃なのだ
その出会い頭の衝撃はさながら一目惚れ、恋の始まりにも似ている
サリエリの悲劇は中途半端に才能があったが故に誰よりも才能を渇望する心が芽生えた事だろう
大概の人間はこの人生の残酷を「俺は俺なりにやっていこう」なり、「この才能と同じ時代を生きれて幸せ」なりに昇華して上手く付き合っていくのに、この童貞(ああ…だからか…)にはそれが出来なかった
「何故俺じゃなくあんな奴に…」と唯々嫉妬の炎に憎しみの薪をくべる事しか出来なかったのだ
だが「嫉妬」ならばそこには「愛」がある
それは完璧なまでに美しい音楽への愛であり、それを紡ぎ出す圧倒的な才能への愛であり、ひいてはそれを生み出した神への愛である
「僕だけが君を本当に理解している」という思い上がりでパンパンに膨らんだその愛が紆余曲折を経てついに成就したかの様なラストは片思いの童貞(ああ…だからか…)の主観ならロマンチックな結末だろう
おじいちゃんが大昔の大恋愛の話をし出したらそりゃ若者はゲッソリするわ
題材のクラシックさに反して、人間本来の下世話な感情や欲望が滲み出る展開からはバチあたりかもしれないが「宗教ポルノグラフィティ」に観れなくも無い
(監督は「ラリー・フリント」のミロシュ・フォアマン)
個人的には音楽の使い方も含め、編集が最強な映画だった