りっく

THE DEPTHSのりっくのレビュー・感想・評価

THE DEPTHS(2010年製作の映画)
3.1
ストーリーとしては解り易いが、何だかこの映画は、濱口監督らしい「カメラ」への思考と考察が行われていて、望外なるDEPTH=深さ、深度を感じる。

登場人物であるペファン(キム・ミンジュン)の職業が「カメラマン」であることが先ず第一にあり、話自体は、ある被写体となる男娼のリュウ(石田法嗣)を「写真」に収めたことに依り動き出し、彼に誰しもが接触を求める様になるフィクショナルなもので、ジャンルは「LGBT映画」に区分されるだろうが、ここで注目辷きは、カメラの「ファインダー」に見る世界との""境""でしょう。

冒頭での何の変哲も無い都市の風景の断片的な数枚のカットが象徴的で、両端がグレーとなる画面設計は明らかに""境""を強調している。+(プラス)瞬間的には境の前後で""距離""を感じるのでありますが、""事実""を捉えるカメラは面白いもので、結果的にはその凡ゆる""境""や""距離""、例えば「過去(記憶)と現在」「現在と未来(予知的な)」に見るそれや、レンズを「覗き見る」撮影者と、カメラに向かってポーズを取る、また表情を見せる被写体にあるそれ、「幻想と現」を次第に溶かし、人物共に軽やかに飛越えて、前述した""接触""を可能にしてしまう。それがここではしっかり描かれている。

ペファンは「撮ることで(彼がモデルとして成功することを)確かめられる」ことを知っていて、それは次第に彼に対する好意を確かめることに繋がり現像された「写真」を見る/見ないことに依って、""事実""を知る/知らないことに於いても誰より詳しい彼は、ジレンマに陥る様にリュウに左右されているのだろう。そこでの選択(距離を取るか取らないか)と不可能な裁量と不毛な現実の可視化において、映画的過ぎる感動を見事に喚起させている。

「カメラ」だけが捉えてしまえる彼等の表情があることを「カメラ越し」に設計された「スクリーン」を通して見ている私達と、現に彼等の境も溶かされていく錯覚があり、と同時に獲得される哀切を頂点に押し上げる演者の力量は評価されるべきで、特に石田法嗣の佇まいは現行邦画シーンにおいて、唯一無二では無いか。ここで求めている「愛」が、""誰か""では無く""名前が付いた貴方""であることには、濱口監督の色を只管に感じたりもした
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