Jeffrey

インポート、エクスポートのJeffreyのレビュー・感想・評価

インポート、エクスポート(2007年製作の映画)
3.0
「インポート、エクスポート」

冒頭、ここはウクライナ。1人の看護師。彼女はシングルマザー。生活の為にオンラインセックスの仕事を始める。オーストリアへ出稼ぎ、無職の男、借金。彼は東ヨーロッパの黒海沿岸の国へ。今、東から西へ向かう女、西から東へ向かい男の運命を映す…本作は2007年カンヌ国際映画祭に出品されて日本では遅れながらに公開された「ドッグ・デイズ」の鬼才ウルリヒ・ザイドル監督による長編映画で、この度パラダイス三部作のBDボックスに収録されているの初鑑賞したがすごい映画だった。本作は男女の姿をユーモラスかつエロティックに描いたもので、監督の幻の傑作とされていた映画だ。上映時間は135分と案外長く、東と西、セックスと死、勝者と敗者、権力と無力を社会の狭間で生きる人々を捉えたものだ。この作品は驚くべき観察眼で負の部分を捉えていた。監督は完璧主義者と知られているが、まさにこの作品は完璧なまでに培った方法論をぶつけている。この作品はカンヌでは無冠だったが、確かエレバン国際映画祭で最高賞受賞していた。


さて、物語は全てが凍てつく灰色の冬。ウクライナで看護師をしながら幼子を養うオルガは、突然給料カットを言い渡される。生活のためにオンラインセックスの仕事を紹介されるが、彼女はプライドを捨てられない。この貧しく閉ざされた街から出て行きたい。オルガは1人、オーストリアへ家政婦として出稼ぎに出る。一方、オーストリアではニートのポールが、警備員の職にあり着いた途端に解雇されていた。職業紹介所に行ったところで、取り柄もない彼に仕事などそうあるはずもない。友人知人にさらには義父と、そこら中に借金のあるポール。見かねた義父は仕事の相棒にウクライナへとポールを連れ出す。オルガとトポール。文化も生活もかけ離れたヨーロッパ大陸の西と東で生まれた2人が、同じように新たな人生を渇望している。オルガは底無しの貧しさを、ポールは無能のレッテルを捨てようと、自分を信じて新しい国へと旅をする。だが新天地では、異郷の厳しい洗礼と新たな屈辱が彼らを待ち受けていた…と簡単に説明するとこんな感じで、監督による悲観論が描かれている。

この作品は社会を批判していると思われるが、基本的に監督自身が持つ思想では、この世の中を良くすることができないと訴えかけるような作品だ。いわゆる楽観主義者の視点よりかは悲観論者からの目線で描かれた作品だ。それにしてもオルガ役の女性はウクライナ出身で元看護婦であり、看護婦の役である。今は舞台で立つ1人になっているが、ここでも新人を使っている。そしてポールを演じた彼の実際の名前もポール・ホフマンといい、14歳で家出してからずっと荒れた生活を送っているそうだ。住所不定で携帯番号を度々変えて軽犯罪で服役したこともあるそうだ。いゃ〜、冒頭からウクライナの寒村的な雪景色の中を歩く1人のブロンド女性のファースト・ショットから始まるのだが、意味を説明されず病院で赤ちゃんを管理している看護婦の描写が始まったと思えば、今度はオーストリアのウィーンの人里離れた砂利道を走っている数人の男たちが1人の男に色々と訓練されている場面が唐突に現れ、彼らが口ずさむ"ゼットゼットゼット"(字幕がつかない分、なんて発音しているかわからないがこう聞こえる)でとにかく叫べと言われる場面が現れあっけらかんとする。


その後に地面に寝転がって足を上げてくの字の態勢で半ば虐待的なことをされる。そうしたらカットが変わり、またウクライナの病院へと変わる。看護婦が列を作り、給料的なものをもらっているが、どうやって暮らすのと不満を言う場面が登場して、また煙が多く出る工場付近の雪道を歩く女性が捉えられる。あの歳のとった看護婦と女性看護婦が固定ショットで争う場面は笑える。女の戦いって感じ。この作品も突如現れる暴力が結構見受けられた。それにしても世界3大映画祭に出品されたパラダイス三部作の、中年女性のバカンスに始まり、イスラム教徒の夫から得られなかった愛の拠り所を過剰なまでにイエス・キリストに求める女に始まり、青少年向けダイエット合宿で父親ほど歳の離れた男に初めての恋をする女であったり、現実社会では手にできない理想の愛に満ちた楽園を求め、セックスに始まり信仰心に始まりロリコンと危険な一線を超えてしまう3人の女性をうまくユーモア交えて描いたのが素晴らしかった。
Jeffrey

Jeffrey