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複製された男のkitoのレビュー・感想・評価

複製された男(2013年製作の映画)
4.0
とびきり大不思議だけど、非常に面白かった。

邦題に引っ張られてずっとクローン人間のSFだと思って観ていたーー蜘蛛型エイリアンによる地球侵略物語なのか⁈とか。しかし、終盤、瓜二つのふたりが入れ替わって恋人や妻と一夜をすごそう、なんていうあまりに "厨二病" っぽい流れになり、侵略ものではなくひょっとしたら高度に発達した蜘蛛型宇宙人による仮想空間的な "お遊び" なのか⁈などと考え直す。

で、観終わっていくつか考察を読むとなるほどと思える解釈がされている。しかし、クローン人間というSF的解釈だってあながち間違ってはいないと思う。仮想空間的解釈というのはさすがに "夢オチ" と同じなので分が悪いけれど。

ポルトガルのノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの小説『複製された男』(原題:The Double, 2002年)の映画化。原作では「俳優は教員よりも30分早く生まれていた」とか「クローン人間」という言葉がふたりの会話に出てくるそうで、映画タイトルが「Enemy」となっているように原作からの改変部分が複数あるそうだ。電子版があればすぐにでも読みたいのだが、書籍も中古市場で探さないといけないらしく残念。

舞台のトロントはパンタグラフの市電が走り、茶色がかった空気感の演出で不思議なレトロモダン感がある。本作の一番大きな謎が不気味な蜘蛛。市電の送電線はまさに蜘蛛の巣の暗喩だと感じる。ただ、驚きなのが原作に蜘蛛は出てこないそうだ⁈

巨大蜘蛛が都市を歩く短いシーン、最初の遠景で「はっ、六本木の巨大蜘蛛アートかあ!」と思った。これはフランス出身の彫刻家ルイーズ・ブルジョワの巨大な蜘蛛の彫像シリーズ「ママン」のオマージュだそうだ。巨大蜘蛛が卵を抱えているのを六本木で真下から何度も見上げた。

本作は母性、女性、性欲などがキー要素で、その象徴といえる教員の母親役がワンシーンだけしか出てこないのにイザベラ・ロッセリーニという有名女優なのもなるほどなキャスティング。蛇足だけど妊婦役のメラニー・ロランはフランス生まれの美形で見惚れてしまった(大きなお腹はフェイクだろうなぁ)

Amazon配信中のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品は「砂の惑星」以外の7作品を見終え、「ブレードランナー2049 」と並んで本作はお気に入りツートップになった。そのどちらも「はたして自分は何者なのか」というテーマなのが面白い。
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