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マダム・イン・ニューヨークのkouのレビュー・感想・評価

3.5
《他人を決めつけてしまう事の安易さ、そして自分が自分らしくあること》

インド映画はあまり見たことがなかったのだけれど、とても素敵な映画だった。誰にでもおすすめすることができる映画というのはこういう映画かもしれない。というのも、とても平和で悪意が存在しない映画だからだ。観る人によって感想は様々持つような映画であるし、どの立場からも教訓はある。

主人公のシャシは母親として家の仕事をしながらお菓子作りを得意としている。英語が苦手なことから娘に馬鹿にされ、負い目を感じている人物だ。学校の面談でもお母さんは何もわかってないんだからと娘からぞんざいな扱いをされてしまう。そんな中、姪の結婚式が開かれることになり、ニューヨークへ手伝いに行く。そこで見つけた英会話の教室に通い、他国種の人々と関わりながら彼女が自分の学びたいことを学び、そして表現する言葉を身に着けていく。

全体を通して明るく楽しい映画だったが、その中に他人を決めつけてしまう事の安易さ、そして自分が自分らしくあることへの素晴らしさについて描かれていた。人が持つ他人へのイメージは固定的で一面的でしかない。例えば僕から見た母親は母親としての姿しかない。職場でしか関わりのない人も、親しい友人でさえ、それはその人の僕の前で見せる一面でしかないのだ。人はその姿を見て他人を「こんな人」と決めつけ、それが変化することはない。いつだって家族のために早起きして、夜遅くまで働き、そして家族の喜びのために動く母親は最も偉大なのに軽んじられてしまう。彼女の個性など考えなくなってしまうのだ。

そういった「決めつけ(judgemental)」というのが相手を傷つけていることがあるかもしれない。その相手は多くの経験と発想があり、ユニークで個性的な人なのに、僕らは他人に対して偏見を持って決めつけてしまう。あの人はこういう人と決めつけることはとても簡単で、安心できる考え方だ。自分の範囲の及ぶところに人がいると人間は安心する。

でも人は一面だけじゃない。主人公シャシはとても魅力的で笑顔の素敵な女性であり、自由な発想を持っている。マイケル・ジャクソンの真似をする姿なんてとてもキュートだ。シャシに結婚を控える姉の妹ラーダが「本当はとても自由な考え方の人なのに」と語るシーンは忘れられない。

ラストシーン、彼女が自分の言葉で自分の思いを話すシーンで感動する。個人として尊重されなかった彼女が自分の思い(個性)を吐露するのだ。彼女の話す、「相手から尊厳がなくなったと感じる時もある。その時は自分で自分を尊重してあげて。」という言葉はとても納得の行く映画のテーマに対する回答だった。全編にわたって明るく楽しいし、爽やかな一作だと思う。ダンスシーンも楽しい。それでいて見終わった後に心に残るものがある良作だと思いました。特に主婦の方に感想を聞いてみたいと思った。
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