シャシは家父長制の根強いインドの主婦。朝は夫を起こさぬよう台所へ行きチャイを沸かす。家族と朝食を囲む間も要望に応え甲斐甲斐しく立ち働きする。料理も上手く貞淑で良妻賢母を絵に描いたようなシャシ。おまけに美人。夫が外に出したくない気持ちも分かる。「君の料理は僕だけのもの」←言われてみたいw特に「ラドゥ」(菓子)は絶品で皆から褒められる。
そんなシャシのコンプレックスは英語が話せないこと。家庭に収まっていれば然したる問題にはならないが、夫や子供にからかわれる劣等感に傷つく。何より外との会話が成り立たないと言うことは家庭から出られないということ。NYに住む姪の結婚式のため単身家を離れるシャシの嘆きようは、家族との別れのつらさだけではないだろう。
NYで会話ができないことから起こるアクシデントに一念発起。英会話教室で学び始め様々な国のクラスメイトと交流する。言葉を学ぶとは自分の世界を広げるということ。それは自信となって自身の問題の突破口を開いてくれる。
結婚式の準備中、皿のラドゥを落としてしまうシーンがある。泥のまみれるラドゥ。英会話学校の最終試験の時間が迫る。けれどシャシはラドゥを作り直す。
シャシは様々な華やかなサリーを身にまとう。それは凛として美しい。民族衣装はその国に生まれ育った者としてのアイデンティティの表れだ。自国の誇りの表明である。そしてラドゥを作ることは彼女自身の誇り。ラドゥなくして英語も何もないのだ。
結婚式でのインドの伝統に則った儀式やダンスは、国を誇り集う人々の思いに溢れる。その中でも共通の言語は英語。大切なことは言語の種類ではなく、すべての人に思いが伝わるかどうか。ここでは生まれ育った国のアイデンティティを大切にしながらも世界とつながっている。
そして、結婚式のスピーチで彼女の誇りは結実する。
劣等感は自身で克服するもの、そうすればまた絆は取り戻せる。
「家族はたった一つのずっと愛と敬意を受けとれる場所。」
家族という一番大切なもののための学びがここにある。
英語を学ぶことで安易に世界に羽ばたくのではなく改めて家族に帰着したところに、この作品の秀逸さがあると思います。主演シュリデヴィの品格ある美しさがインドという国を魅力的に伝えてくれます。彼女のスピーチシーンには本当に感動しました。