夜野

HUNGER ハンガーの夜野のネタバレレビュー・内容・結末

HUNGER ハンガー(2008年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

タイトルの「ハンガー」は「ハンガー・ストライキ」を指しているが、当時のイギリス政府の強硬方針によって政治犯の認定を廃止されたリパブリカン収容者たちが自身のプライドと人権を取り戻そうとする「渇望」をも示す。
1981年3月からのリパブリカンのハンスト (1981 Irish hunger strike) を主題とし、このハンストのリーダー、ボビー・サンズ (マイケル・ファスベンダー) を主人公に、看守、新入りの囚人、新人の機動隊員という複数の視点も加えて事態を描写していく本作は、ほとんど台詞がない。
「政治的殺人、政治的爆破事件、政治的暴力などというものは存在しません。存在するのは犯罪としての殺人、犯罪としての爆破事件、犯罪としての暴力です。わが政府はこの点では一切の妥協はいたしません。政治囚として扱うことなど、ありえません」という冒頭に流れるマーガレット・サッチャーの演説は、サンズのハンスト開始の数日後にラジオで行なわれたものである。
素裸に毛布のメイズ刑務所の囚人たちは「5つの要求」を掲げて獄中で抗議行動を行なっていた。「ダーティ・プロテスト」のため房内の衛生状態は最悪で、時おり高圧洗浄機で壁の清掃がされたり、囚人たちは押さえつけられて無理やり髪を切られ、伸びたひげを刈られたりしている。
刑務所の看守のレイモンド・ローハン(作中では名前は出てこない)は囚人を殴りつける毎日を過ごしている。刑務所職員はIRAに狙われているので、車の下に爆発物が仕掛けられていないかどうかのチェックも欠かさず行なっている。
新たにデイヴィ・ギレンという若者が収監される。囚人服の着用を拒否した彼は、その場で「ブランケット・プロテスト」、「ダーティ・プロテスト」の参加者となった。彼と同じ房のジェリーは、房内の壁に排泄物を塗りたくっている。二人は意気投合するが、房内はハエやウジばかりで最悪の衛生環境だ。ある日面会に訪れたジェリーのガールフレンドがひそかに身体に隠して持ち込んだラジオが、外界との接点だ。
ボビー・サンズが看守によって房から引きずり出されていく。無理やり押さえつけられ、乱暴に髪を切られたサンズは看守のローハンにつばを吐きかける。ローハンはサンズの顔を殴りつける。そしてサンズをバスタブに放り込んで、デッキブラシで身体をこする。サンズがうめき声を上げる。中庭で一服するローハンの血のにじんだこぶしに、雪が降りかかる。
やがて、囚人たちに刑務所から「囚人服ではない普通の服」が支給される(上述した1980年のハンストの結末)。「自分の服」を着る権利は認められておらず、怒った囚人たちが暴れだす。
刑務所当局は機動隊の出動を要請する。現場に急行した中に、現場は初めてのような若い人員がいる。機動隊の一員として楯を警棒で叩いて打ち鳴らすという威嚇をし、同僚たちが暴力を振るう中、彼は怯えている。
暴動の後、囚人たちはさらにひどい目にあわされる。ゴム手袋をした看守たちは囚人たちの身体の穴という穴に指を突っ込んで検査をする。ラジオなどを隠し持っている者がいないかどうかをチェックするためだ。抵抗する者は容赦なくぶちのめされる。
ある日、看守のローハンはケアホームにいる母親を訪問する。そして、そこに突然やってきた男に後頭部を撃たれ、ものの見分けもおぼつかない様子の母親のひざの上に、ローハンは崩れ落ちる。
ボビー・サンズはドミニク・モーラン神父の訪問を受ける。面会室で2人が議論を戦わせるシーンは、本作で唯一セリフらしいセリフのある場面である。このときには既にサンズはハンスト決行の意志を固めており、何とかそれを思いとどまらせようとする神父の言葉は届かない。
こうして1981年3月1日 (1976年に労働党政権が「特別カテゴリー」を段階的に廃止すると発表した日付) に、サンズは絶食を開始する。
66日後、やせ衰え、身体のあちこちに床ずれのできたサンズは、息を引き取る。彼が子供のころに参加したクロスカントリーの大会の回想の場面で、本作で唯一の音楽が流れる。
このハンスト中にボビーはアイルランドの下院議員に当選を果たしていました。7カ月後にストが中止されるまでに9人の囚人が死亡。
また、毛布と糞尿の抗議の間に16人の看守が殺されました。イギリス政府は囚人達の要求をのみます。しかし、政治犯とは認めませんでした。


すごく重いテーマを扱った作品。音楽もなければ会話らしい会話もほとんどない。この作品は一度は観てこういうことが実際にあったということを知っておくべきなんだと思う。構成や撮り方も斬新で引き込まれた。
夜野

夜野