半兵衛

一条さゆり 濡れた欲情の半兵衛のレビュー・感想・評価

一条さゆり 濡れた欲情(1972年製作の映画)
4.0
警察にマークされ幾度となく検挙されてきたにも関わらずストリップ興業をおこなってきたためマスコミから反権力の象徴として取り上げられたストリッパー一条さゆりの引退興業の模様を描くモキュメンタリーと、一条さゆりに憧れて一流のストリッパーを目指すはるみの日々が交差していくドラマ。一見すると全く別々のパートのように感じられるが、二つのドラマには共通して「反権力」というテーマがあるので、神代辰巳監督の飄々としていて実は人間の深淵を凝視しているような演出により別々のドラマが一つに融合して権力と戦っていく女性たちへの賛歌へと昇華されていく。

70年代のアンダーグラウンドな文化を取り上げた本を読んでいるなら名前だけは聞いたことのある一条さゆりの現役時代を鑑賞できるのが貴重、同時にマスコミにちやほやされる状況に呆れ一般人に戻りたいとなげくさゆりの姿はその後の彼女の半生を知っているとやるせなくなるはず。

そして何より、ドラマパートを担うはるみを快演する伊佐山ひろ子のそれまでの女優とは違うアナーキーな魅力は今でも鮮烈。彼女と一条さゆりは全く違う性格なのに、プロフィールが嘘ばかりで虚偽の世界で君臨している女性像になっているところが共通しているのも風俗産業の光と闇が感じられて面白い。

ダラダラと話が進行しているのに、姫田真佐久のカメラワークと流れる民謡や歌、すぐにアフレコとわかる口と台詞が合っていない登場人物の会話、主人公たちの突飛な行動が映画のリズムを形作り妙に心地よい映像世界を構築していく神代辰巳監督の手腕がこの作品では特に決まっておりポルノ映画という範囲を超えて評論家やファンたちから注目されたのも納得。そして見終わったあとたくましく生きる彼女たちのパワーに感化され見ていた自分を少し前向きにさせてくれる。
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