・ジャンル
サイコスリラー/サスペンス/ドラマ
・あらすじ
ある晩のラジオ番組で行われた「母親殺し」の特集
パーソナリティのフランと精神科医リッチモンドが当事者と祖父を招き語り合った後に掛かってきた1本の電話
それはエドと名乗る男からの物だった
彼は自身も母を殺し、その後も殺人を重ねた過去を明かすと共に再犯の意思を告白する
そしてゆっくりと凶行に至った過程を回想していく…
話を聞く内、リッチモンドはある確信を得る
エドは彼が母殺し研究を始めるに至ったきっかけであるノーマン・ベイツであると…
刺激せぬ様に話を続け現在の居場所と新たな標的を聞き出そうと模索する2人
しかしやがて彼らは決裂
早急な通報を求めるリッチモンドに対し、フランはノーマンもまた人間であり救える可能性を感じ始めた為だ
スタジオから返されるリッチモンド
電話越しにノーマンと向き合い続けるフラン
果たして彼の新たな標的とは誰なのか?
犯行を未然に防ぐ事は出来るのか?
・感想
ロバート・ブロックの同名小説を原作とした鬼才アルフレッド・ヒッチコックの代表作の1つである「サイコ」
今作は22年の時を経て製作された続編を皮切りに開始されたオリジナルシリーズの完結編であり殺人鬼ノーマンのルーツを辿る内容
シリーズで唯一テレビ映画として公開され、脚本には1作目を担当したジョセフ・ステファノが復帰
そしてこちらもシリーズ初となるノーマンの母ノーマの生前の姿が描かれておりオリヴィア・ハッセーが演じている
ノーマンの狂気的な犯行を描き根源にも触れた1作目
更生の困難さと遺族による妨害、思わぬ人物の犯行を描いた2作目
変わらず狂気を抑えようとしながらも蘇った母の幻影と記者に追い詰められる3作目
そして過去の犯行を回想し再犯を仄めかすラストとなる4作目の今作
ヒッチコックの手を離れてからも一般的な作品とは異なり一定の重厚感を保ちつつ、単なる怪物としてのシリアルキラーを描くのではなくその心理に焦点を当て続けてきた本シリーズ
その終焉として今作は前日譚でありながら過去との決別でもある内容で完結編に相応しい内容だったと思う
幼少期からノーマンの心に影を落とし続け、死して尚も彼を蝕み続けてきた母ノーマ
彼女がどんな人間でノーマンはどんな扱いを受け、どう接してきて、彼にとって母はどんな存在だったのか
そんなシリーズの核とも言える部分をありがちな抑圧や虐待をなぞるだけにせず、リアリティを持たせながら鮮明に映し出す様は秀逸だった
ノーマンにとって母は親であると同時に親友あるいは恋人であり足枷や悪性腫瘍、そして主人でもある
そうした多様な姿から自身を追い詰めた人間であるにも関わらず未だ彼は母を悪と断罪する事が出来ずにいた
その様がトラウマとして回想と共に彼を再び襲っていくという形で表現されていたのが良かった
そして彼が仄めかす再犯
その標的は前半の段階である程度の予想が付いてしまうのだが理由が過去作品から一貫している心理と地続きな重たい物なので退屈にはならずそこが素晴らしかった
実際に相手と対峙する中で口にする言葉の一つ一つはどれも重たくのし掛かる
「君は僕を信じていない」と突き放す台詞は特に物悲しく信じているが故の愛を受け入れられない捩れ方が切ない…
問題は回想のきっかけとなるラジオ番組の扱われ方
過去の凶行や彼の心理を知り尽くしているからこそ常人と同じ様に対処など出来ないと考える医師リッチモンド
生い立ちを聞く内に同情を覚え彼を救おうとするフラン
相反する立場にある2人をもっと活かす事は出来なかったのだろうか?
聴取率稼ぎにノーマンを利用しようとするプロデューサーにも何かしらの役割が与えられなかったのか?
こういった点のみがただただ惜しい
終盤に差し掛かるとラジオが絡まなくなるという展開は過去との決別という終焉に向かう為に正解だったと思う
それでもその寸前くらいまではフランとリッチモンドの取る行動を描いて欲しかったところ
過去作で描かれてきたノーマンの人物像や狂気、トラウマ、脆さ
それらを通して示されてきた社会派性の強いメッセージ
今作の大部分を占める母と息子という関係性が孕み得る歪な愛憎への示唆
こうした過程があり、現実社会へも様々な事を問いかけてきた本シリーズ
だからこそ安易にバッドエンドへと彼を追い込まずに全てを終わらせた今作は妥当であり秀逸だった
それだけに前述の部分さえもっとしっかりとしていればなぁ…という感じ
無駄な要素ではないんだけどね…
長年の時を経て最善の形で終止符を打ったシリーズとしては「ハロウィン」が個人的に印象強くどうしても比較してしまうんだよなぁ…
ではどうすれば良かったか?と言えばラジオではなく彼が書いてきた手記をコニーが発見し読んでいく、という形で回想に持ち込めんでいれば幾分かマシだったんじゃないかと
まぁそんな風に引っ掛かる部分はありつつも名作を名作のまま終わらせただけでもホラー/スリラーとしては素晴らしいし納得の行かない物では決して無かった
少なくとも2作目以降も好きな人なら楽しめる内容になっていたと思う
とりあえず最後までノーマンを演じ切ったアンソニー・パーキンスには拍手を捧げたい