公開時に渋谷東宝で。という事はまだTOHOシネマズじゃなかったのか。
BSテレ東でCM入りとは言えノーカット版だったので再鑑賞。
ジャッキーのフランチャイズのひとつ、「警察故事」を完全本土資本で撮った一本となる。
タイトルにも「警察故事」と入っているので、ジャッキーの「刑事もの」の正調な系譜の作品だ。
監督は「ラスト・ソルジャー」で組んでいるディン・シェン。
習近平の強権体制の前夜、中国としてもイケイケどんどん、経済発展の中で西欧の文化が流入する都市部と貧困を抱える地方でのギャップが激しくなった中国バブル期が舞台となる。タイ、フィリピンといった一帯一路政策のひずみが生まれ始めている頃。
勿論、警察の腐敗など描けよう筈もない。
なんで物語としては外へ向かわず、「ダイハード・モデル」を採用。ジャッキー・イン・ナイトクラブという事で、殆どの物語がこのクリスマス(中国なのに)のナイトクラブを舞台に繰り広げられる。
「ダイハード・モデル」と書いたのは、プロットの組み方や、些細な描写が後で利いてくる演出、建物の構造を活かした攻防などが結構意識的に使われているからで、篭城もののテキストとして、やはり「ダイハード」が優秀な作品である事が改めて分かる。
居合わせたように見えて、実際には「残された」人質たちの共通点は、主犯であるびっこを引いている(これにもちゃんと理由がある)リウ・イエが選んだ人々。この筋道からボトムアップしている為に、よくよく見ると人物配置など強引なのだが、中盤までの父と娘の相克、人々たちの傲慢さが呼ぶサスペンスなどがあり、ジャッキーの金網デスマッチまでは結構あっという間に見る事ができる。
後半にに至ってロールバックが多くなり、若干二時間サスペンス的な運びになるのは、恐らく中国の観客に向けてのデザインだろう。それぞれの言い分が若干異なっていて補完されていくのが、記憶遡及型の謎解き劇として面白い。
中国映画のルールとして、「悪人は逃げ延びてはいけない」というものがあり、多くの香港映画監督が苦労している所だ。
「大捜査の女」や「毒戦」は大陸版のエンディングを変えるという事でここを乗り切っている(実際のところ97年以前も台湾版と香港版、中国版でエンディングが違うという事はよくあるものではあった)。本作では、最近でいうと「ザ・アウトロー」的な落とし方にしてある。なかなかクレバーな選択だと思う。
ジャッキーの撥ねっ返りの娘役に、ドニーさんの「特殊身分」にも出演したジン・ティエン。眼が大きくて首も長くていかにも中国の女優さんという感じ、すぐに日和るあたり可愛いものである。このあと、「パシフィック・リム アップライジング」でイェーガー乗りとなった。
ジャッキーの古くからの相棒という設定で、香港のユー・ロングァンが出ているのも嬉しいところ。
リウ・イエの役作りは中々よくて、両者の知能戦は見応えがあった。
このお話のキーとなる女性にグーリーナーザー。ウイグル人という事で震えがくるような美人だが、今はどうなんだろう? 海外に転出してれば大丈夫なのか。
全体としては、「重案組」「新警察故事」系の「人間・ジャッキー」映画であり、アクションも軽業的だったりバスター・キートン風ではない重量系の「痛みのある」アクションになっていながら、要所要所でディン・シェンが決めてくる画はハリウッドのアクション映画の見せ場を参考にしており、この時点での中国映画の洗練を見る事ができる。
同時に警察官たちの描写は「こう撮っておけよ」という当局の圧も感じられて面白い。面白くないか。
エンドクレジットにNG集が入っていて、やっぱりジャッキーの映画はこれがないとね、となる。
「レッド・ブロンクス」でも思ったが、大したこと無さそうなシーンほど怪我に結びつき易いんだなぁ。