カタパルトスープレックス

ジャンヌ・ダルク裁判のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

ジャンヌ・ダルク裁判(1962年製作の映画)
3.8
ロベール・ブレッソン監督が描くジャンヌ・ダルクです。無駄を徹底的に削ぎ落としたドライで客観的な映像表現が特徴的です。役者に演技を許さず、観客に感情移入を許さない。それがブレッソン流の映画ならぬ「シネマトグラフ」なんでしょう。

ジャンヌ・ダルクは日本人にとっては理解しにくい題材です。15世紀のフランス王国の軍人であり、オルレアンの乙女。百年戦争で荒廃したフランスの希望の光。しかし、それは19歳の少女。その英雄が敵対するイギリス軍に捕まってしまい、異端審問で火刑となってしまいます。

百年戦争の終結後に、ジャンヌ・ダルクの復権裁判が開かれ無罪となります。後年、ローマ教皇によりカトリック教会の聖人に列聖されます。異端として処刑された後に、無罪となり、聖人となる。しかし、肖像画も何も残っておらず、異端審問の記録だけが記録として残されています。ジャンヌ・ダルクの生涯のうち、この異端審問が映像作品として取り上げられることが多いのはこれが理由となります。この他に有名なのはカール・テオドア・ドライヤー監督『裁かるるジャンヌ』(1928年)ですね。

『裁かるるジャンヌ』と比べると、本作はかなりドライな印象を強く受けます。音楽がないのもそうなのですが、バストショットがメインなのに肝心な表情はあまり映さない。他には体の一部のクロースアップが多い。鎖につながれた手や足。撮影監督とそれで揉めたそうですが。モデル(ブレッソン監督はプロの役者はほぼ使わなかった)も感情を大きく表面には出さない。

すごくストイックな作品で、ジャンヌ・ダルク自体が日本人にはあまり馴染みがないテーマでもあるため、あまりお勧めはできません。しかし、ロベール・ブレッソン監督の特徴を理解するにはとてもいい題材だとも思います。

なお、本作は『田舎司祭の日記』(1950年)から続くベテラン撮影監督レオンス=アンリ・ビュレルとの最後の共同作業となります。