まりりんクイン

ぼんとリンちゃんのまりりんクインのレビュー・感想・評価

ぼんとリンちゃん(2014年製作の映画)
4.0

オタク文化にスポットを当てた青春劇。
公開されたとき、地元のミニシアターで監督と主演のお二人によるトークショーがあったのですが、予告から醸し出される余りの痛々しさと恥ずかしさに食指が伸びず笑


いやートークショー行っとけば良かった…


オタク版「サイタマノラッパー」とも言うべき、痛い青春物として中々の佳作でした!!

本作はほとんどが会話劇で、キャラクター同士の丁々発止の会話シーンのみで話が進んでいくと言っても過言ではありません。
所謂新世代オタク(コミュ力も社交性も一定量あるオタク)というモチーフを最大限活かしたこの会話劇が、とにかく絶品。

正直、本作で描かれているオタクはファンタジーです。
どれだけ重度なオタクと言えど、流石にあんな会話のし方はしないでしょう。
というか、一般人が見て面白がれるようにかなりデフォルメされてます。
しかし、同時に妙に生々しくもあって、
ものすごく身も蓋もない性の描き方なども含めて、
浅野いにおさんの漫画に近いセンスを感じます。

最強に痛い(褒め言葉)キレのあるオタク会話シーンの数々は、
普通なら本当に観ていられ無いレベルの恥ずかしいものになってしまうでしょうが、
ちゃんと痛々しい物として描きつつも、観ていられるようにものすごく工夫されてると思いました。

一会話をBGM無しのほぼワンカットで見せていくことで、緊張感と没入度合いを高めることに成功してます。
この感じに、「サイタマノラッパー」におけるラップシーンを連想しました。

また、話の確信まで台詞で言ってしまうような、普通ならあまりにも説明的過ぎてダサい演出も、
「オタク」というフィルターを通すことで、自分語りから人生論まで早口に喋りまくることに逆に説得力と作品内リアリティを持たせることに成功してる。
そして、これらの超長尺で全く現実感のない痛い会話を、殆ど違和感なくやってのける主演の二人の演技も凄い。
特に台詞も多いボンちゃんを、本当にそういう人にしか見えないレベルで演じられた、佐倉絵麻さんはすご過ぎる!
ドラマ「熱海の捜査官」で、新興宗教の教祖様をやってた人ですね。

主人公たちの出身が
「ここではないどこかの地方都市」となってたりそもそものストーリー含め、映画全体のフィクションラインも実は結構低かったりもするので、
「ああ、これはオタクがこんなふうに喋る世界の話なんだな」と観る側も無意識のうちに納得してしまいます。

何より、ボンちゃんとリンちゃんのキャラがほんと素敵。
オタクAKOGAREの結晶のような男女2人組だ。
二人とも可愛さが適度なのも良い。
「いそうでいない、でもどっかにこんな奴ら居て欲しい…」と思わせるいいコンビだ。悪魔でもカップルではなくコンビ。
いいなあ…

行動を共にする40過ぎのキモデブオタク、べびちゃんも、マジでどうしようもないクズっぷりも笑いました。

怒涛のワンカット会話劇で見せるクライマックスのリンちゃんとみゆちゃんの対決シーンがまた
素晴らしい。
・会話の流れで自然とみゆとリンちゃんがどんな関係だったかわかるようになってる
・酸いも甘いも経験してしまったみゆちゃんに、大学生なのにバイトもしてないっぽいボンちゃん。オタク特有の未経験故に誰かの言葉の引用で語るリンちゃんの言うことは全く響かず。→前半にドヤ顔でもう便を振るっていた痛いシーンがちゃんと振りになってる。
・褒められると嬉しい→盗撮してたボンちゃんを褒めていたリンちゃん

ここに来てやり取りの一つ一つが前半と呼応していて気持ち良い。


オタクとはつまり、妄想と理想に生きることだ。
考えてるだけで何もしないと、しかし、べびちゃんのようにそれだけではやりきれなくなる時がくる。
「姉さんは正しいけど間違ってると思います。」
リンちゃんの方は、普段からそんなボンちゃんを見て来て、もう心の何処かではその事に気付いている。
一足先にオタクから足を洗い、現実的に生きていたみゆとの衝突を通して、その事をボンちゃんも悟った。しかし、ボンちゃんは考えるのを辞めない。
ラスト、部屋で2人でゲームをするボンとリンちゃん。
もし凡百の映画だったなら、
ここでボンちゃんの成長を、
リンちゃんとセックスをするとか、恋愛に積極的になるような描写で表現するだろう。

しかし、ボンちゃんは語る。ひたすら語る。
今回の出来事を通して思ったことを、自分の人生観をひたすら自分語りを続け、ソレにいつもの調子で相槌をうちながら相手をするリンちゃん。

「苦悶にもアナルはきっとある!」

そしてそのまま映画は終わる。

何という揺るがない、オタクらしいラスト!!!
最高だ!!

ボンちゃんはこれから恋をするかもしれないが、きっとリンちゃんとは良いコンビのままだろう。

そして、これからもわからないことを知ろうとし続けて、その度にドヤ顔で語りながら成長していくだろう。
それは恋愛したって、どんな人生経験をしたって、絶対に揺るがないアイデンティティだろう。
それがオタクという生き物だ!!

主題歌、迷子のリボンも良かった。ある意味答えを出す事を避けて終わった本編に対して、より踏み込んだ内容の歌詞になってる。

小林啓一監督、
次トークショーに来られたら絶対行きます!!!

「ももいろそらを」も観てみようかな。
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