MasaichiYaguchi

ベル&セバスチャンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ベル&セバスチャン(2013年製作の映画)
3.5
映画の冒頭、主人公の少年セバスチャンとおじいさんが、母を亡くした子ヤギを助けるシーンが出てくるが、このシーンが象徴するように「救い」がテーマになっていると思う。
セシル・オーブリーの児童文学を実写映画化した本作では、雄大で美しいフレンチアルプスの大自然を舞台に、未だ見ぬ母を心の支えにしているセバスチャンと、人間に虐げられてきた一匹のグレート・ピレニーズとの心の交流が描かれる。
第二次世界大戦下、フランスがナチスに占領されていた時代なので、セバスチャンの住むアルプスの麓の小さな村にも軍靴が響き、戦争の暗い影が落ちている。
この作品では迫害されている二つのモチーフが登場する。
一つは、村人たちから家畜や人を襲う“野獣”として恐れられ、命を狙われている一匹の犬。
もう一つは、ナチスから迫害の対象とした追われているユダヤ人。
これらのものに対し、主人公セバスチャンをはじめとした人々は救いの手を差し伸べていく。
後にベルと名付けられる一匹の野犬は、心も体もボロボロで薄汚れた“野獣”だったが、セバスチャンと出会い、彼の純粋さや優しさによって“Belle”(美人)になっていく。
そしてセバスチャン自身も、後に明かされる彼の切ない境遇を、この犬との触れ合いの中で乗り越えていく。
ナチスが登場するが、児童文学が原作ということもあり、残酷なシーンや悲惨なシーンがなく、人によってはストーリーが生温く感じられるかもしれない。
それでも可愛いセバスチャンとベルによって繰り広げられる、謂われ無き迫害を受けるものに救いの手を差し伸べる本作は愛の物語。
この作品の鑑賞後には、心に穢れ無きアルプスの雪原が広がるような気がする。