Eike

イン・ユア・アイズ 近くて遠い恋人たちのEikeのレビュー・感想・評価

3.1
MCUで元祖アベンジャーズ 初期2作を担当してアメリカ娯楽映画界のフロント・ランナーに躍り出たジョス・ウィードンの脚本の映画化。

真冬のアメリカ東海岸、レベッカ・ポーター(ゾーイ・カザン)は医師で病院経営にも携わる夫の元で不自由の無い、しかしどこか満たされない日々を送っております。
一方、中西部はニュー・メキシコ、出所した元窃盗犯ディラン・カーショウ(マイケル・ストール・デイビッド)は更生プログラムの下、洗車場で働く毎日。
彼も先行きの見えない生活に喜びを見いだせず、疲弊しております。
全く接点のないこの二人の間に突如、思いもかけず奇妙な結びつきが生まれてしまう...。
境遇の異なるお互いの世界を「共有」することでいつしか二人の間には分かちがたい共感が生まれて行くのだが...。

変な映画であります。
ジョス・ウィードンと言えば言わずと知れた元祖オタク界のカリスマ・クリエイターであり、SF/ホラー/サスペンス志向の強い方。
本作は1992年、彼が28歳の時点で書いた物語だそうです。
それもあってか、突飛な発想に基づくドラマですがどちらかと言えばロマンス色が濃い青春ドラマの味が強い。
もちろんレベッカとディランの精神感応がプロットの中心にある訳ですがその理由には殆ど踏み込んでいません。

ですが、なかなか巧いな、と思ったのはこの二人の間に生まれるのがいわゆる「テレパシー」では無い事。
あくまでお互いの目を通した世界と声を共有する事だけが可能である点。
相手の目を通してその世界を目撃し、互いに言葉を交わすことは出来ても相手が何を思っているのか、その心中は窺い知れないということ。
つまり決して「以心伝心」と言う訳ではないのだ。
感情と真意を分かち合う為には言葉を発して「会話」しなければならず、その点では現実と何ら変わりはない。

と言う訳で約100分の本作ですがこの二人、ほとんどしゃべりっぱなし(笑)で実際に顔を突き合わせるのはクライマックスのみ。
しかし互いの世界を分かち合う事でそれぞれの世界観にさざ波のように変化が生じて行く様は地味ながらもちゃんと描かれていてあざとさもなく受け止めることが出来ました。
実際には結構、ムズムズするような、じれったい描写が満載で、ちょっとこっぱずかしくて見るのが辛い所も...。
お互いの姿を初めて見せ合うシーンや(各自が鏡の前に立たなければ相手には見えないのだ.)遠く離れた二人が共有するラブシーンの不思議な情感とエロスもかなりこそばゆいですがユニークです。

幸い主演の御二方の熱演もあってギリギリの所でへばらずに見ることが出来ました。
ゾーイ・カザン嬢は「ルビー・スパークス」に続いてまたまた特殊な環境に置かれた女子を好演。
お相手のディビッド氏はちょっとクセが無さすぎて頼りない気もしますがこちらも人物像はうそ臭くはなっておらず素直に見れました。

本作はいうなれば究極の「遠距離恋愛」を描いた作品ともいえます。
一度も会ったことのない相手と世界を共有せざるを得なくなってしまった男女のロマンス。
後半にかけての二人の行動は、まぁ予想がつくものであり、実際、期待通りの展開が待っております(その意味ではエンタメ度も高いと言えます)。
ただ、その方向に持ってゆくためにエンディングに向けてちょっと性急過ぎて着地点としては不満が残る。
ドラマチックなお膳立てとして様々な障害や憎まれ役が用意されている辺りも都合が良過ぎる気配もあります。

しかしそうした気になる点はあっても一風変わったロマンス映画として楽しめるのではないでしょうか。
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