義民伝兵衛と蝉時雨

マルケータ・ラザロヴァーの義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

マルケータ・ラザロヴァー(1967年製作の映画)
4.7
カメラワーク・アングル・構図の鮮烈さ。映像・音楽のシンクロ率。凄まじいほどに鮮烈な映像表現によって、愛と憎しみ、真実と欺瞞、矛盾に満ちた人間の普遍的な営みが描かれている。美しくも辛辣なこの寓話の世界観に陶酔した。人類が存在する限り絶えることのない闘争や争い。しかしそれは人類を存続させる為の本能が起こしていることでもある。その本能を罪悪として、道徳や善悪を説き、本能の発揮を抑制した人間を美化することによって、天上の理想に救いを見出す信仰。その信仰が肥大して形骸化した中世ヨーロッパ。僭越な自己欺瞞によって本来の人間臭さを否定し、教条通りに禁欲を唱える信者達。方やその人間臭さや泥臭さや愚かさの真ん中を逞しく生きる人間達。本作はそんな自然な人間の本能への愛と肯定と赦しの物語に思えた。何度か涙が出そうになったが、特にラストには心が解された。シンジ君の言葉を借りれば「ここにいてもいいんだ」。至高の人間讃歌。