歯医者のお姉さん

ルック・オブ・サイレンスの歯医者のお姉さんのレビュー・感想・評価

ルック・オブ・サイレンス(2014年製作の映画)
3.8
胸を切ると断面がココナツのようで…なんて現実とは思えない会話が繰り広げられていて混乱する。アクトオブキリングで衝撃を受けもっと掘り下げて知りたくなり被害者視点ver.も観た。アクトオブキリングの時は武勇伝を語るようにペラペラと喋っていたのに対し、こちらは沈黙。被害者の弟さんがあの映像を見たり、加害者の話を直接聞いている時の姿がやるせなくて涙が出そうだった。

隠さないで自慢するということは完全に洗脳されていて、良い事ならしたが、悪い事をしたとは全くもって思っていないのかと思いきや、素性を明かした瞬間、あれよあれよと保身に走り、辛辣な言葉を浴びせるか、不自然なほどの友好的な態度を見せて逃れようとするから、心の底では分かっていたんだろうと思う。言葉とは逆に涙を流す人も数人。そしてそこでみんなが揃って口にしたのが、"政治の話がしたいのか" "過去は過去だ"という言葉。加害者と被害者の根本的な考えの相違が見えた。被害者にとってはほんの歴史の一部でも、過去でもないんだよ…

そんな加害者の報復を恐れてか、私はそんな事件は知らない、とか、なぜわざわざまた掘り起こすのか、と住人たちも沈黙する。授業では今も"あの出来事は正義の元に行われた"と教えられていて何も変わってはいない。『人殺しどもの子供が苦しむことを祈ってる』と、息子を殺された母の台詞が印象に残っている。日本も虐殺者たちに資金を渡していたとデヴィ夫人のインタビュー記事で目にして悲しくなった。この作品を観るまで、恥ずかしながら正直私も歴史の一部程度の認識だったが、他人事ではないことがよく身に染みた。危険を冒してでもこの作品を届けてくれた方々に感謝。