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裁かれるは善人のみのらいちのレビュー・感想・評価

裁かれるは善人のみ(2014年製作の映画)
3.0
今年のGG賞で外国語映画賞を受賞するなど、多くの映画祭で話題になったロシア映画「裁かれるは善人のみ」を観る。
原題の「リヴァイアサン」から、かなり変形している邦題であり、観客の思考を偏らせるタイトルだと思えた。言わんとすべきことはわかるけれど。。。
ロシア北部の海辺にある田舎を舞台に、自分たち居住地を守ろうとする家族と、権力を使って彼らの土地を奪おうとする市長との対立を描く。
土地を奪われまいとする家族の父親は、旧友である腕利きの弁護士をモスクワから呼び寄せる。その効果はてきめんで家族の劣勢が一気に逆転し、それどころか市長を危機に追い込めてしまう。家族VS市長という、土地を巡る攻防が描かれると思いきや、家族内での秘密が明らかになり、物語は思わぬ方向に転がっていく。
本作で描かれるのは、欲望に憑かれた権力がモラルや正義をことごとく踏み倒し、救われるべき市民が負のスパイラルから抜け出せず堕ちていく光景だ。しかし、「救われるべき~」というのは「善人」という言葉を使った邦題の先入観である。主人公の父親は呑んだくれのDV男で、およそ善人には見えず、むしろロクデナシだ。愛していた奥さんがとった行動に対しても自業自得に見えて、主人公に対する同情心は薄い。その一方の市長も文句なしの悪人であり、クズとクズの争いと捉えられてもおかしくない。自分にはそれが不条理劇に見えた。なので悲壮感も何も残らない。不条理というのは製作者の意図とはズレた解釈なのかもしれないが、本作のキャラに善悪の区分をつけることはおそらくナンセンスだと思う。
原題にも影響するヨブ記からの連想は、想像力のない自分にとってはとても難解で味わうに至らず。また、共感の拠り所のない本作においては2時間20分という上映時間が必要以上に長尺に感じた。興味深かったのは、普段見慣れぬロシアの庶民の人たちの生活風景や価値観である。何かにつけウォッカを水のようにグイグイ呑んだり、裁判所の判決の読み聞かせが異常に早口だったり、歴代の大統領たちをコケにするおおらかさがあったりなど、どの光景も新鮮に映る。寒々とした雄大なロケーションは素晴らしく、映画のもう一人の主人公に見えた。
【60点】
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