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裁かれるは善人のみのAimiのレビュー・感想・評価

裁かれるは善人のみ(2014年製作の映画)
3.7
デビュー作「父、帰る」で見せてくれた、あの息を呑むほどに美しい画と重厚な人間ドラマを私は今でも鮮明に思い出すことができる。私はすっかり監督のファンになった。

アンドレイ監督の最新作「裁かれるは善人のみ」
原題は「リヴァイアサン」。
邦題に引っ張られると、人によっては少し納得いかない気持ちを抱いてしまう。
というのも、その裁かれる主人公コーリャがあまり善人には見えないから。自業自得ではと思ってしまう場面もいくらかあり、同情するのは寧ろその息子の方だった。

原題「リヴァイアサン」、旧約聖書に登場する海の獣。その鱗は固くどの武器もその鱗を貫けない。
このタイトルと物語の関連性がまだ深く読み込めなくて調べてる最中だけれど、どんな攻撃をも跳ね返してしまう様はさながらかの市長のようでもあり、それはそのまま巨大国家や政府に当てはめらるんじゃないかなとふと思った。
私たち一般市民がなにをどうしたって、コーリャのようにあれよあれよと仕組まれた「事実」によって潰されてしまう。
そんな様や構図を見せる作品は数あるけれど、この作品はそれをとても静かに、淡々と描ききっていて現実味を帯びている。
だからこそコーリャとその息子の追い込まれぶりを見ていると胸に不快なものを感じずにはいられなくなるんだろう。

市井の生活感もまたよく描かれていて、そのミニマムな生活が雄大な自然の中で営まれている様はなんだか惚れ惚れとしてしまいそうだった。本当にこの監督は画が美しい。フライヤーにもなっている、巨大な鯨の白骨を前にうずくまる息子の後ろ姿はまるで腐敗してリヴァイアサンを前になす術もなく絶望する人の画のようにも見えた。
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