yoko

雪の轍のyokoのレビュー・感想・評価

雪の轍(2014年製作の映画)
4.2
まずはじめに
何の気なしにトルコ映画でもと思い今作を鑑賞していたのだが、なんかチェーホフっぽいなと思い調べてみると本当にチェーホフ原作「妻」であった。なかなか鋭くなってきたなあと自画自賛。

今作はドストエフスキーになぞらえて批評されているかたもいるが、終わりなき日常漂うだるそうな会話、討論してるようで芯をくわない感じは紛れもなくチェーホフ。ドストエフスキーならもっと感情的に深淵に迫っていく会話になると思う。

でも主役の造形はフョードルカラマーゾフかな。それにジャックニコルソンとゴッドファーザーをたして暴力性と下品さを抜いた感じ。

妻はワーニャのソフィヤや桜の園のラネフスカヤ、カラマーゾフならカチェリーナあたりかなあ。上品で下々のものにも優しくパッとみ高潔そうだが纏った自己欺瞞がトラブルのもとになっていることを気づいてない感じ。

やもするとビジュアルや表面的な言葉だけなら夫が悪、妻が善と思われかねないが、パルムドールとはいえ3時間のトルコ映画を寂しく1人でみる人達は主人公アイドゥンに親近感が沸くのではw

そう、出来事だけ追うとそこまで主人公が悪くもなく、間違ってもいないところが高尚さであり、エンタメ的なカタルシスのないところ。父権的な力で押さえつけられた美人妻が自立してスカッとという映画ではない。そもそも主人公は男性的なマッチョイズムを持ってはいない。出来事を見てる人、観察する人なのだ。度々離れたところから何かを眺める主人公。

洞窟は名所という意味だけでなく、臆病さ、洞窟の影絵の例えのような視野の狭さの表現とカッパドキア名物気球の視野との対比だろう。

金のシーンはカラマーゾフのアリョーシャとスネギリョフのシーンまんまでしたね。これは叩かれた分、我慢した分・・・と数え出したのが笑い的なクライマックスでしょうか?

トルコというか旧ソのような、お前オーウェンウィルソンのエネミーライン出てたやろ的な彼(子供の親)のビジュアルはツボ。トルコ好きのかたよりロシア好きに勧めたい。

日本人旅行者はなぜ?おそらく主人公が一番機嫌が良いのが彼と話している時。インテリジェンスなホテルのオーナーの立ち位置を確約してくれるから。上機嫌でゲストと英語で喋っちゃうワイ見てクレメンス!日本人ということで知的さを満たせる、でも男として勝ててる!それができなかったのがバイカーの存在。色々遠回しにマウントを試みるも相手にされてない感じ。その比較で日本人。

ラストはファントムスレッド感もあるが、ワーニャの「それでも生きていかなくちゃ」エンドでしょう。あの夫婦にはもうドラマチックなことは起きないでしょう。だからといって別れもない。冬に雪の降る洞窟ホテルで。
yoko

yoko