ちゃんしん

雪の轍のちゃんしんのレビュー・感想・評価

雪の轍(2014年製作の映画)
4.6
個の存在の在り方。

洞窟ホテルという個性を売りにしたホテルを舞台にして繰り広げられる話。
とても哲学的で舞台も登場人物も背景も全てが一つのテーマで統一されている。

それは「個の存在」の在り方だろう。

人間は誰でも思考能力がある。
子供から大人、お年寄りに至るまで…、皆が皆、違う思考を持つ。
それは当たり前のことなんだけど、現実として人はいつからか誰からも好意を得たい…、特に親しい存在や仲間にはそういう目でみてもらいたいと思うようになってしまう…。
自己承認欲求とでも言うのだろうか?
しかし、他人の目が気になり始めればもうそこに自分という個は存在しなくなる。
人に認めて貰いたいが故に、逆に認めてもらえない状況を自分で作ってしまう。

他人の目を気にしないバイク乗りの旅行者、叔父の目や思いに同調しない子供、自由にしてやろうと離した馬、狙われているとも思わない兎。

他人の目など気にして生きてどうする? 他人の評価など気にしてどうする?

芸術家の評価も、芸術家が自分を表現するから初めて評価されるのであって、真の芸術家は他人の評価などほとんど気にしないものだろう。
作品を良いと思う人が多ければ評価されるだろうし、料理人も自分の味を追求することで他人から評価されるのだろう。
(哀しいことに今の時代は権力者の意向が反映されてしまうのが現実なのだが…。)
善行という人の評価も、後からその人の行動に対して評価されるものだ。

大事なことは、あくまで主は自分であって他人から見た自分では無い。
他人の目を気にして生きることほどバカバカしいことはないだろう。
自分の意思で自分がやりたいからやる、その方が良いと思うからやる、
だからこそ良いことは称賛されるしそこに意味が存在するようになる。

個の存在、物事の良し悪しは他人に認めて貰うものなんじゃなくて、他人が認めてしまうものなんじゃないか?
自分が良いと思えばそれで良いんじゃないか?
誰もが自分を主にした生き方をすることが生きる上で一番大切なことだし、そもそもそれが生きるということなのだと思う。
自分が出来ることをやる…、自分が幸せだと感じることをする…、ただそれだけでいいはずだ。

お互いの個性を認め合い、尊重しながら生きていく…。
そういうもの。
それが共存と共生というものだ。

綺麗な風景の描写がとても良い。
良作。
ちゃんしん

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