Tully

アメリカン・スナイパーのTullyのネタバレレビュー・内容・結末

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「イーストウッド卿」 の振り幅の広さに感服するが、演出はいつも通りの淡々姿勢でラストまでを貫く。原作は 「C・カイル氏」 の 「自叙伝」 で、彼はシールズ所属の狙撃手でイラク戦争に4回派遣された伝説の男である。公式記録でも160人を射殺、その中には敵の女性子供も含まれている。仲間から伝説と呼ばれ、敵から悪魔と呼ばれた男。そんな彼の半生をじっくりと丹念に炙り出していく。主演の 「ブラッドリー・クーパー」 は彼に惚れこみ自身で映画化権を獲得、製作を進める渦中で悲劇的な事件は起こった。そのラストを観終えて思うのは、なんと皮肉な運命だろう。なのだが、PTSDに蝕まれていくその爪痕の深さが突き刺さる。戦場に赴いた彼らが抱える最大の難問であり、平和な日常に戻ろうと癒えはしない。彼の任務に於いて、他者を守る。とはいわゆる敵とされる人間を容赦なく殺すことである。彼の口から出る「報復」「蛮人どもめ」という言葉はさらなる同情を拒む。心理スリラーともとれるその過激さに私の感情は寄り添えなかった。彼のどんな功績もそれが正常行為だと思えず、イラク戦争に懐疑的な家族や同僚達の率直な意見の方が事実を述べていると感じたのである。「生きて家に帰りたい。もう嫌だ、こんなところは狂っている」 彼はその後NPO団体を設立、帰還兵の社会復帰支援活動に取り組む。ここからが功績となって欲しかった願いがやり場のない悲嘆に暮れる。
Tully

Tully