カイ

アメリカン・スナイパーのカイのネタバレレビュー・内容・結末

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

偶然にもアカデミー賞発表当日に観た。残念ながら音響編集賞の受賞のみに留まったが紛れも無い傑作だった。鑑賞後色々なレビューを観ると戦争を讃歌しているという批判の声が多くて驚いた。僕自身はそうした意見は些か想像力を欠いているのではないかと思う。そもそも本作の主人公、クリス・カイルはイラク戦争で活躍したSEALs隊員で、関係者が存命のこのタイミングで彼を描く上では彼をアメリカの罪の象徴として描くことは倫理的にあり得ない訳で、そんな中で絶妙なバランスでこの映画を描いたクリント・イーストウッド監督の手腕には思わず唸ってしまった。

ではこの映画はどういう映画なのか。僕はこれは間違い無く反戦映画であると思う。本作冒頭のカイルの幼少期を描いた場面で「羊」「狼」「番犬」の例え話が出てくるがこの「番犬」とは間違い無く「世界警察アメリカ」のメタファーだろう。そしてこれがカイルのトラウマそのものになっている。大使館爆破テロが切っ掛けで志願した彼は四回の派遣の末にPTSDに悩まされることになる。僕が感情を揺さぶられたのはカイルが次第に自身の存在理由を剥奪されていく過程だ。派遣を重ねるごとに戦友が一人、また一人と隣で死んでいき、皆を守る「番犬」になりたかった彼の「戦う理由」は失われていく。最後の派遣で彼は帰国を決意するが「家に帰るよ」と言いながら彼が流した涙は、もう自分が戦場で出来ることが何も無くなってしまったことへの悲嘆の涙に見えた。戦場を奪われた兵士に残されたのは病と家族だけだった。帰国後彼は同じ病気に苦しむ人々を助ける活動に参加するが皮肉にも彼の命を奪ったのは同じ病に苦しむ同胞の凶弾だった。

実話にしては余りに出来過ぎな話である。そしてあのエンドロールの演出に続くのだが、あれが僕にはイーストウッドの強烈なメッセージに感じられた。「彼の死だけでもう沢山じゃないか?」

何より悲しいことは悲劇がこれで終わらないであろうということ。

そしてそれを始めたのはアメリカである。
カイ

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