コーヒーマメ

フレンチアルプスで起きたことのコーヒーマメのレビュー・感想・評価

4.2
多くの男の望む“女らしさ”が幻であるように、女の望む“男らしさ”なんてのも存在せず!と教えてくれる、シュールすぎる名作だった。
やっぱり、男は女よりもビビりだ。笑

家族での束の間のバカンスとして訪れたスキー場で突如として起こった、大きな雪崩。
初めこそ、携帯で撮影しながら談笑していたものの、徐々に近付いてくる雪崩は勢いを増すばかり。
そして、遂に、観光客のランチ現場は、幸せな雪景色から恐怖の雪地獄へ。
家族が逃げるのに手間取っているなか、なんと、一番のうのうとしていた父親だけがそそくさと逃げてしまった。笑
その姿を目撃した妻は完全に混乱状態に陥り、家族の中に亀裂が生じる。。
たった一つの小さな出来事から生まれた余波が加速度的に大きくなっていくさまが、当事者からすれば、地獄のような時間だが、観ているぶんには滑稽で笑えちゃう。家族に起こる悲劇をシリアスとコメディとのぎりぎりの境界線で描くことで生まれた、究極のブラックユーモアに笑わずにはいられなかった。

日が改まるごとに「一日目」、「二日目」と記されたり、ホテルの洗面所や寝室といった、「家族が毎日集まる場」を撮り続けることで日常をとても淡々と写し取り、より、事件以降の家族の関係性の変化が伺えるようになっていた。
長回しのシーンもかなり多いけど全く退屈させられなかった。
きっと、画面に映る夫婦や家族の一つ一つの仕草に意味があり、情報量が多かったからだと思う。

また、カメラワークが徹底して「第三者」からの視点を保っている。
そうすることで、観客にはギクシャクした家族に感情移入させず、常に一歩離れたところから見せることで彼らの滑稽さを感じさせていた。

撮り方だけじゃなく、作中にかかる音楽もとても特徴的。
ヴィヴァルディの「夏」の鬼気迫る曲調が、家族の危機感を増幅させ、作品にとても良いアクセントとして機能している。
そして、一番良かったのが、たった一度だけ流れるイケイケの曲!
どこで流れるかというと、妻に見放された夫がつい浮かれて他の女に目移りしそうになるシーン。笑
男はいくつになっても、子を持つ父親になっても、男であることに変わりはないんだな。笑
音楽とあいまって、阿呆らしすぎて劇場で笑っちゃった。

そして、ラストシーンの気持ち悪い終わり方がめちゃくちゃ好みだった。
色々あったけど絆が深まり、充実した表情を見せる家族四人、そして、彼らの笑顔を見て胸を撫で下ろした観客共々を、奈落の底へ突き落とすラストの展開には唖然とするしかない。
観る人によって解釈が変わりそうなほど突き放した終わり方に鮮やかさえ感じた。

『ゴーンガール』と『そして父になる』を足して2で割ったような、それでいてとてもシュールでユーモアに溢れている。
監督の鋭い人間観察っぷりに唸られされた。
アルプスの雪景色よりも寒気がするラストシーンは必見。