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ある優しき殺人者の記録のレクのネタバレレビュー・内容・結末

ある優しき殺人者の記録(2014年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

韓国人ジャーナリストのソヨンのもとに、入った一本の電話。
障害者施設を抜け出し18人の殺害容疑が掛けられたサンジュンからの電話だった。
ソヨンとサンジュンは幼馴染で、日本人カメラマンを連れて指定した場所に来て欲しいと頼まれる。

日本人カメラマン田代役は白石晃士監督自ら演じ、役と撮影を担当。
日本人バカップルの登場辺りからの中弛みのハンパなさが現実上手くいかないよなって感じで、ある意味このグダグダ感がモキュメンタリーにリアリティを演出。
カメラで撮影し続けたかのような86分1カメ1カットPOV方式で映し出される映像は、まるで長い映画を観た後のような満腹感を与えられる。
観る人を選ぶ暴力とオカルトの融合モキュメンタリー映画。

子供の頃に事故で死んだ幼馴染の少女を蘇らせるために、神の声に従って連続殺人を犯す過去に囚われた男。
彼にとってその事故は"過去として忘れるべき出来事"ではなく"受け入れられない忘れてはならない出来事"なのだ。

「27歳で27人を殺せば幼馴染のユンジンと殺害した全員が蘇る」という神のお告げを信じて従うサンジュン。
実際サンジュンが手を下したのは28人でこの点に疑問を持った。
「首に痣のある2人を殺せ」という神のお告げも、サンジュン自身が手を下して成立した殺しではないんですが、この辺は結果論なんでしょうか。


まあ細かいところは置いといて、一番考察すべきは神の存在とラストシークエンスですね。

これは本当に神の仕業なのでしょうか?
空から現れた姿はどう見てもタコか何かの触手、まるで悪魔のようだ。
それに触れられた瞬間、子供の頃に事故が起きた日へとタイムスリップ(もしくは世界線の移行?)。
無事ユンジンを避難させるも、本来ユンジンを轢き殺した車に跳ねられサンジュンが死亡。
ソヨン、サンジュン、そしてユンジンの3人が生きている場面へ移行し、カメラがその映像を記録しEND。

ここで二つの疑問が。
一つ目は、なぜ神のお告げを満たしていない(サンジュンがまだ生きてる)場面で神は突然姿を現したのか。
「首の痣がある2人が愛をもらって死ぬとユンジンと他が救われる。」
タイムスリップした後にサンジュンが死ぬことでこの条件が満たされてますが、神が姿を現したのはタイムスリップさせるため?
それならばお告げに反して、サンジュンが死ぬ前にユンジンを救ったことになる矛盾。

二つ目は、子供の頃の事故現場のビデオ撮影は子供の頃のサンジュンたちが撮影していたはず。
タイムスリップした後ではビデオ撮影しているのは大人サンジュンだけ。
実際、神様なんかいなくて触手は悪魔か何かで、ユンジンが事故に遭った現場を撮影してたのが実はタイムスリップしてきた自分でしたっていう無限ループバッドエンドならかなり好みだったなあ。


カメラだけが時空を越え、幼馴染3人を映し出したラストシーン。
映し出されたサンジュンには当然殺人を犯した記憶はありません。
ユンジンはカメラから何かを感じ取り(サンジュンのお陰で今を生きていると本能的に感じた?)、サンジュンに礼をする。
生き返ったら映画を観ようと死ぬ間際にソヨンが願った世界となっていた。

一見ハッピーエンドにも見えるこの光景にかなりの違和感を覚えた。
別の世界線だとしても、殺人を犯したサンジュンがその記憶さえ無く、のうのうと生きているのがハッピーエンドなのか?
恐らく、この世界でサンジュンは殺人犯ではないので殺された人たちは生きているんだろうけど、犯した罪は消えないし、人を殺めるということの罪の重さを彼は何も背負っていない。
この世界では殺人を犯していないから罪に問われないのだとしても、"叶ってはいけない願いが、罪を犯して叶ってしまった"まるで夢のようなこの世界そのものが悪なんじゃないだろうか。

考えすぎかもしれませんが、自分は単なるハッピーエンドとは受け入れられないなんとも言えないラストでした。
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