真一

劇場版 PSYCHO-PASS サイコパスの真一のレビュー・感想・評価

3.1
 何の予備知識もないまま視聴しました。オチがあまりに子供だましでドン引きしけど、途中までは、右傾化する日本の実像を物語に投影させており、かなり引き込まれました。

 舞台は西暦2112年、東京。湾岸地区で起きたテロ事件の捜査に当たる公安当局は、犯人グループが東南アジアにある独裁国家「シーアン連邦」の反政府勢力だと断定。勢力の中心人物は、かつての同僚・狡噛慎也(こうがみ・しんや)だと突き止める。現地に派遣された公安執行官・常守朱(つねもり・あかね)は、シーアン政府軍の支援を受けながら、狡噛を追う。

だがシーアン政府軍による人権無視を目の当たりにした朱の心は、揺れる。背後にちらつくのは、非道な政府軍を後押しする日本政府の影だった。「アジアの平和と安定の維持」の名の下に、最新の治安システムや無人化殺傷兵器をシーアン連邦に大量輸出していた日本政府。汚れた日本の「平和維持政策」に憤った朱は、ついに狡噛とタッグを組んで決起するのだが―。以上が、本作品のあらすじです。

 優れた視点を持った作品だと思ったのは、戦後続けてきた武器禁輸措置を撤廃した日本の新安保政策を批判していると受け取れるためだ。2014年に当時の安倍政権は、歴代政権が守ってきた武器禁輸を投げだし、利益第一の観点から「日の丸」ブランドの軍事物資を輸出する方針を打ち出した。その翌年の15年に上映されたのが、本作品だ。安倍政権が日本丸の舵を「右」へと切る中、製作スタッフが、危うい世相にヒントを得て本作をつくったのは、想像に難くない。武器輸出が招くかもしれないリスクを、新聞の社説より的確に、分かりやすく伝えていると思う。

 最新の治安システムである「シビュラシステム」も興味深い。日本国憲法が保証する「内心の自由」に踏み込むこのシステムは、安倍政権が17年に制定した「共謀罪」を連想させる。シビュラシステムは、住民一人一人の脳内に巣くう潜在的な犯行意思をセンサーで読み取り、数値化する機能を備える。もし対象人物の犯意の数値が一定レベルを超えていると判定された場合、公安当局者はその場で対象人物を逮捕したり、処刑したりできる。

 これに対し、日本社会にリアルに導入された共謀罪(テロ等準備罪)は、重大な犯罪を計画した場合、実行前でも罪に問われるというもの。法案審議の際、戦前の治安維持法の再来だとして強い反対論が上がったものの、与党が強引に成立させた経緯がある。シビュラシステムは、共謀罪に着想を得ていると見ることもできそうだ。

 ただ、日本製の無人化兵器が日本政府の秘密プログラムに基づき、暴走したシーアン政府軍の兵士を虐殺する場面には笑ってしまった。作品に登場する日本当局者は「シナリオ通りだ」とクールに語るが、東南アジアの国に武力行使したら、日本は宗主国の米国からたたきつぶされてしまいます( ̄。 ̄;)。あの馬鹿馬鹿しいラストが、この作品を「お子様向け」にしてしまっているように感じます。
真一

真一