ユーライ

虐殺器官のユーライのレビュー・感想・評価

虐殺器官(2015年製作の映画)
4.0
いや、全然アリでしょ。伊藤計劃原作の一連のアニメ化プロジェクトは、その宣伝の模様も含めて現在の視点から見ると(当時から)殆ど「忌み子」のような扱いすら受けているフシがあるが、少なくとも本作に関しては意義ある結果になっているんじゃないでせうか。ただ何回映像化しても問題ない部類であるから実写化にしろ何にしろまた試行されて欲しいとは思うが。まずアニメーションとしてのルック、モードから言ってもSF的な高級感に欠けていないのからして良いし、あらゆる面でカロリーを使う作画も各国の風俗等ちゃんと考証して描いているのが伝わってくる。主題歌をEGOISTにすると言ったいかにもノイタミナ的な洒落臭さも目立ちはするが、一つの選択肢としては別に問題ないと思いますけどねぇ。当然伊藤計劃好みの映画に仕立てるのがスジのはずで、そのミッションを完遂するには「黒沢清と押井守の悪魔合体」という無理ゲーを果たす必要があるのだが、語りの多さからいってやはりと言うべきか押井守のモードを彷彿とさせるベラベラ会話劇中心となっている。だって原作から会話を削ぎ落すってそりゃ無理なんだからさ!ラストは『CURE』のまんまで良いというのも理解出来るが、やはりカッコ付けから考えてもああするのが正しいんだろうし、全然許容可能な改変。ファーストショットが「文字」なのも示唆的だし、主観を意識させるショットを挿入しているのもちゃんと分かっている。クラヴィスの目線が最初からジョン・ポールではなくルツィアに向けられている。クラヴィスとジョン・ポールが対峙するシーンではクラヴィスが黒一色の影のように描かれ、ラストに到って共犯的な関係、引いては「伝道師」を受け継ぐに至る。月光を強調するのも大仰だけどまぁ……ただジョン・ポールの表情の付け方はちょっとクサ過ぎるかな。やっぱりブラックコメディにするべきで、原作はあの題材に一人称を導入した時点での「勝ち」にあるのだから、今回はそこが中途半端。もう一回トライするならもっとユーモアを、意図的にコメディに。お偉い方がゾロゾロ見えるだけでやっぱり原作の世界観とズレて見えるんだ、ただしそれによって得られる効能も確かにあった。
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