りゅっくサック

虐殺器官のりゅっくサックのレビュー・感想・評価

虐殺器官(2015年製作の映画)
4.7
この作品は死生観や人間学や社会学、わかりやすく言うと
「生まれてから今まで頭の外にあった、疑問にも思わず当たり前になっていた事」
普段生きていれば気にもかけないことを、主人公がテロリストを追うシンプルなライン上から突き付けてくる。

大人になってこんな衝撃受けてるんだから、中学生の頃に本作があったら変なスイッチを押されてたかもしれない。

当初は2015年公開予定だった本作。
制作会社manglobeが経営破綻をし、山本プロデューサー自ら制作会社を新しく立ち上げ継続させた、激動の制作環境だっただろう。

フジ系のアニメ放送枠ノイタミナ立ち上げの立役者でもある、頭つるつるの山本プロデューサーは舞台挨拶でこの件を
「この作品の制作が忙しすぎてこんな(頭)になっちゃいました」と笑い話にしていた。
しかし数日前まで制作し続けたと言う笑えない話もあった。

本作の為に書き下ろされた主題歌、EGOISTの『リローデッド』は制作の遅れにより1年半、作品とリンクしないまま聴いていたが
今作を観た後では違う側面が見え、楽曲の深みが増し予期せぬ時間差攻撃を喰らってしまった。

キャスト達も収録から公開まで異例の期間だったが
それでも主演の中村さんは後日自身のラジオで「また読み返したい作品」として台本を大事に取っていると言っていた。

こんな大勢の人間を突き動かした伊藤計劃という人が気になりブログを読み漁ってしまいました。
どんな人がここまでの感覚を持ち、作品に落とし込んだんだろうと。
「きっと本の虫で難しい事を常に考えてるような人なんだろうな」と思っていた。

そしたら拍子抜けしてしまった。
ただの映画と本とゲームが好きで拘りの強いオタクのおじさんだった。

そのおじさんは最期まで遺作になるハーモニーを執筆しており、最後に更新されたブログには
「ハーモニーを書いた後は何しよう、今月は映画ヘルボーイと007慰めの報酬が見たい、愉しみ。(ブログより中略)」
と創作物を楽しみ、何かを残そうと苦心し続けた
そんな人間らしい素晴らしいクリエイターでした。
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