三樹夫

X-MEN:アポカリプスの三樹夫のレビュー・感想・評価

X-MEN:アポカリプス(2016年製作の映画)
3.7
前作より10年後の1983年、世界最初かつ最強のミュータント“アポカリプス”が復活し四騎士を集めて世界を支配しようとする。ジーン・グレイ、サイクロプス、ストームなどが本格的に登場。
今作ではミュータントのパワーに着目している。パワー(権力)を手に入れた者がどう振る舞うかというものだ。パワー(権力)を手に入れると人はただ支配者となるだけなのか。“アポカリプス”が構築しようとしている世界は弱いものは死ねの弱肉強食の世界だ。80年代の弱肉強食というとレーガンやサッチャーのイメージだが、“アポカリプス”は80年代のネオリベ連中みたいなモチーフなのかな。

監督はブライアン・シンガーが続投だが、この人は全教科で60~80点は取れるけど飛び抜けたものがないっていうイメージ。最終決戦になると工夫も何もなくただの火力押しみたいになって大味で、とたんに『X-MEN』オリジナル三部作っぽくなる。いいコンセプトは出してくるけど演出力は高くないというか、細部の詰めとかこだわりも薄い。『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』をマシュー・ヴォーンが監督してることで比較が出来てしまう。
『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』はがっつり60年代のルックを作っていて、『X-MEN:フューチャー&パスト』は70年代のルックを作っているものの前作の画作りに比べると劣る。今作は80年代が舞台だけどルックは全然80年代じゃなくて、というか80年代感あまりないし、スリラージャケットやラジカセ、Eurythmicsとか80年代アイテムを配置しているだけ。単にブライアン・シンガーが80年代を描くのに興味がないだけかもしれないけど。『スター・ウォーズ エピソード6/ ジェダイの帰還』を観に行って3作目は微妙よねは新シリーズ3作目のこの映画とひっかけたギャグだけど、この映画が凄く面白かったら良かったんだが、この映画は結局微妙な感じなことでもの凄い残念なシーンになっていて、ヘラヘラしてんじゃねぇよとすら思えてくる。

キャラクターの扱いが雑いというか、マグニートーは前作で演説ブチ上げた割に隠居状態だし、サイクロプス出てきたからキャラ被るハヴォックはリストラみたいな感じで雑に退場になってるし、ジーン・グレイと能力被るプロフェッサーXは今回はお休みみたいな感じだし、というかプロフェッサーX封じ展開またかよとなる。強能力なので使えない様にするしかないと『犬夜叉』の弥勒か。ストームがバチクソカッコいいナリで出てきたのに全然活躍しないし。サイロックのコスチュームは何とかならんかったんかと思う。典型的な女性の性的搾取のやつだし、被差別者やマイノリティーが虐げられるというテーマを扱ってるのにあれは気になる。
前作とのつながりとかはあまり気にしてはいけないシリーズではあるが、ブライアン・シンガーは続投してる割に結構その場その場の作り。マグニートーはもうベジータみたいなものだな。

ジーン・グレイ、サイクロプス、ストームなどが登場してくる楽しさはある。サイロックの能力は『DARKER THAN BLACK -流星の双子-』の葉月水無みたいで一番良かった。そして前作に引き続き高速移動強すぎ。スピードタイプがこれほど活躍するのも珍しいように思う。スピードタイプってなんかザコキャラ扱いだし。『スクライド』のクーガーは強かったけど。ミスティークは最早主人公で相変わらずカッコいい。なんかフェミニズムの闘士みたいになってる。ストームが憧れるのも分かるというか、観てるこっちもウットリしながら観てるし。うなぎ登りで好感度が上がっていく。

細かいところ気になりだしたらキリないし、イマイチかゆいところに手が届かない映画ではあるが手堅く作られている印象は持つ。観ていて退屈するわけでもないし。キャラの交通整理が大変だったと思うが、そう思うと完全に破綻しないように職人技で作られているのかなと思う。
80年代との時代の絡みが薄いというか、核戦争の恐怖というので80年代とのつながりなのかもしれないが、舞台が80年代でなくてもいいんじゃねと観てて思ったな。敵もキリスト教的なバカでかいものになっちゃってるのも、あまりにも現実世界から離れているように感じてどこか他人事に思えてしまう。
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