マジックリアリズム。
1976年の大晦日。
狩りを楽しもうとホテルに集まった6人は雪山で死体を見つける。
その死体は、1949年に終わった内戦で死んだゲリラだった。
しかし、その血はまだ生温かった。
その死体が、6人とその妻たちの過去、そしてギリシャの歴史を思い起こさせる。
ギリシャは1946年から始まった内戦が1949年に終わった。
イギリスやアメリカの支援を受けた保守派が勝利をおさめ、ナチスと戦ったレジスタンスたちが負けた。
1957年、アメリカの中距離ミサイルがギリシャに配備された。
1958年、イギリス、アメリカ寄りの政党EREが与党になったが、ソビエト寄りのEDAが最大野党になった。
1961年、EREが選挙において不正を行う。後に「暴力と詐欺の選挙」と呼ばれた。
1963年、EDAの政治家が極右派に暗殺される。
1964年、24才のコンスタティス2世が王位を継ぐ。
1965年、国王が首相をクビにする。
1967年、軍事クーデターが起こり、軍事政権が、1975年まで続く。
ギリシャは1951年から1964年で国民の平均所得がほぼ4倍になった。
1950年から1973年まで高い経済成長率を達成、これは同時期の日本に次ぐ世界第2位の成長率だった。
1975年にギリシャの軍事政権が終わった時、民主主義が復活し、楽天的な雰囲気がギリシャを覆った。
希望に満ちた作品を期待されていたが、監督のテオ・アンゲロプロスはそんな映画は撮らなかった。「よくわからんねんけど、忘れたらあかんのんと、違う?」とでもいうような映画を作った。
アンゲロプロスの映画で一番好きなシーンは、『旅芸人の記録』の姉と弟が、母親とその愛人を殺しに行くシーンだが、
『狩人』にはそれに匹敵するシーンが4つある。
二人のヤニスのシーン、
1963年のヤニスが撃たれるシーン、
1967年の大佐の車が広場をぐるぐる回るシーン、
1977年の新年のシーン。
曇天のシーンがトレードマークのアンゲロプロス監督だが、夜のシーンも素晴らしいと改めて思った。