犬里

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)の犬里のレビュー・感想・評価

4.4
「かつてスーパーヒーロー映画のはしりとして撮られた映画で名を馳せた、元祖スーパーヒーロー俳優」役にマイケル・キートンを据え、低音(いわゆるバット・ボイス!)で喋るヒーロー人格を与えるあたり、現実世界とリンクしていて面白い。キートン見たら「バットマンの人だ!」て思っちゃうもんなぁ。
キャスティングによって現実と映画の境目も曖昧にし、また作中でも長回しによって時間と空間の境目を曖昧にする。長回しの映像って、舞台を見てるような緊張感があって独特の魅力がある。映画で名を馳せた俳優が舞台演劇で成功しようとする話であるので、演劇っぽい雰囲気を出す長回しで撮られたこの映画そのものが物語の内容を表しているように思う。
「超能力」も「声」もリーガン1人の時に出てくるので、空を飛ぶシーンと同じく、想像力豊かな・そして精神的に追い詰められている彼の妄想なんだろうなぁ。それをすべて映像にすることで、作中の現実と妄想の境目も曖昧なものになる。
鼓笛隊と、スパイダーマンやバンブルビーといった近年の人気ヒーロー映画のコスプレキャラクターたちがスモーク炊いた舞台でアクションするシーンは、ニューヨークのごみごみ感、映画ビジネスの夢と暗部、リーガンの頭の中を悪夢的に表現しているようで良かった。

かつて演劇などの創作物の中で人を超える存在として描かれてきたのは「神」だが、現代ではそれが映画で描かれる「スーパーヒーロー」になっている、という話が印象的だった。確かにそういう面はあるかも。スーパーヒーローが神の代わりなら、元祖スーパーヒーローであるリーガンは最初の神なんだよな。
※現代の人々は教会に行く代わりに、美術館に行く。美術館で作品を見る人々は、自分の内面と向き合い祈るような顔をしている。そのため、建築家は寺社や教会よりも、人々の祈りの場として美術館の建設を望む人が多いという話を聞いたことがある。
人が、人知を超えた神を見る場所として、映画館に行くという側面もあるのかもしれない。
犬里

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