尿道流れ者

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)の尿道流れ者のレビュー・感想・評価

4.8
いやもう本当に面白い。滑らかで刺激的な映像。ワンカットという触れ込みから想像する以上にスピーディーで入り組んだ映像。舞台美術やその裏側に至るまで、落ち着きのありながらもカラフルで目移りするような小物の数々。音楽も素晴らしい。ジャジーでフリーキーなドラムソロのみで構成されたBGMが醸し出す雰囲気は他では得られない。文学的で抽象的な台詞とは対照的に直接的で実存的な映像。そのアンバランスが心地良い。それがコメディとして、あるいはシリアスな面持ちで振り幅大きく観ている側に仕掛けてくる。

この映画では、よく物が投げられたり、吹き飛んだりする。その方向が素晴らしい。投げられる方向がただ良い。投げられた賽がベットの隙間に落ちたなら誰も気づかずに、当の本人すら覚えていない。しかし、それが頭上に投げられ、頭の上に落ちて、後遺症が残るほどのダメージを自分に与えられたなら幸いだが、その痛みに対して自覚的でありながらも、現実離れの自己妄想をやめられないのがこの映画の主人公。虚構と現実の折り合いをつける日がいつかくる。しかし、それが社会的な常識や他人からの批判で行われるのならつまらなく、悲しい。今日は駄目でも、明日は成功していたかもしれない。そんな不確実な可能性が世界の大半を構成していて、事実とは異なるそんな不明瞭なものに一喜一憂している。

主人公はかつてヒーローだった。でもそれは瞬間瞬間の僅かな単位であれば誰にしもあったものだ。それが長いか短いかはそれぞれの状況によるが。しかし、その一瞬の輝きに誰しもが浸っていて、今の自分を超えた、より素晴らしい自分を妄想し、そこにすがっているのではないか。それが滑稽と言われるなら、かけがえのない時間や思い出に対して土をかけるのに等しい。

最高だったなという感想しかない。誰しもが思い、触れる感情の凹凸をこれほどビジュアル的に面白く表現したものをリアルタイムで観れたことが嬉しい。音と映像には文句のつけようがないと思う。あとは内容が気に入るか、それだけは人を選ぶものかもしれない。