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アルジャーノンに花束をのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

アルジャーノンに花束を(2006年製作の映画)
4.6
『エデンの園を追われる者』


薬剤投与による知能障害改善実験にサンプルとして参加することで長年の夢であった知性を獲得し、劇的な知的進化を果たす主人公シャルル。
そうして彼が体験した人生は鮮烈な刺激に満ちた余りに豊穣かつ甘美なる世界であった。

学問を習得する喜び、音楽、そして恋。

しかし、夢のような時間と引き換えに彼が払うことになる代償は極めて大きく、結局シャルルの行く末には残酷に過ぎる報いが待ち受けていたのだった。


この物語は禁断の果実(知恵の実)に手を出し、その味を知ることで神の逆鱗に触れてエデンの園を追放された創世記の中の最初の人類の逸話ーいわゆる失楽園ーを想起させるものである。
映画のラストシーンで(迷路で立ちすくむ鼠のアルジャーノンの姿にも重ねられた)十字路の真ん中にとり残され途方に暮れるシャルルは、楽園を追われ今も袋小路で彷徨(さまよ)い続ける我々人類の姿を象徴的に表しているかのようである。

そして、ここに物語の核心となる重大な問いかけが不気味に横たわっている。
それならばシャルルは最初から知性などという禁断の果実に手を伸ばさない方が幸せだったのだろうか?


人間らしさとは何か。


人間である以上、たとえ失うものの方がはるかに大きいとしても、生きてゆく限りにおいて進化という挑戦を目指すべきではないだろうか。


何か(誰か)と出会い、何かを知り、その後それら全てを失うことで無知なままで居た時よりも遥かに深い、耐え難いほどの孤独と辛酸を嘗め尽くす人生にあい見(まみ)えることになるかも知れない。

それでも、未知の冒険に挑む勇気が少なくとも我々に新たな地平を切り拓かせ、他の誰かの新たな勇気に繋がるということは、孤独な人生を生き切る確かな理由と動機になり得るのではないだろうか。
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