サマセット7

マイ・インターンのサマセット7のレビュー・感想・評価

マイ・インターン(2015年製作の映画)
3.8
監督・脚本・製作は「恋愛適齢期」「ホリデイ」のナンシー・マイヤーズ。
主演は「タクシードライバー」「レイジング・ブル」のロバート・デニーロと、「プラダを着た悪魔」「レ・ミゼラブル」のアン・ハサウェイ。

[あらすじ]
妻に先立たれた70歳のベン・ウィテカー(ロバート・デニーロ)は、新興のウェブ・アパレル企業による高齢者を対象としたシニア・インターン制度に応募し、採用される。
彼が配属されたのは、若き創業社長ジュールズ・オースティン(アン・ハサウェイ)のインターンだった。
急激に大きくなった会社運営は多忙を極め、ジュールズは社員や家族とじっくりと向き合う余裕を無くしていたが、人生経験豊かなベンによって徐々に影響を受けていき…。

[情報]
2015年公開のアメリカ映画。
ロバート・デニーロとアン・ハサウェイというオスカー俳優を主演に据えた話題作。

監督・脚本・製作のナンシー・マイヤーズは、30代以上の男女の恋愛をメインに描いて来たヒットメイカーだが、今作ではやや趣向を変え、「世代を超えた男女の友情」にフォーカスした。

主演のアン・ハサウェイは、メリル・ストリープ演じる鬼上司の下で成長する若者を演じた「プラダを着た悪魔」でブレイクした経歴を持つ。
今作では自身が上司、レジェンド俳優のロバート・デニーロが部下(インターン)を演じるという「プラダを着た悪魔」と逆転した構成の作品にチャレンジした。
とはいえ、2作の間に配給、製作、監督、脚本家における共通項はない。

今作のジャンルは、お仕事もの、コメディ、ヒューマンドラマ。
元気が出るお仕事もの映画の特集記事などで、しばしば取り上げられる作品である。

今作は一般観衆から一定の評価を得ている。
一方で、批評家の評価は割れているようである。
3500万ドルの製作費で作られ、1億9000万ドルを超えるヒットとなった。

[見どころ]
とにかくロバート・デニーロに癒される映画!!!
落ち着き!コミュニケーション!
クラシックなスタイル!傾聴!!
年齢を重ねたが故の哀愁の魅力!
人間としての懐の大きさ!!
ハンカチ!!サヨナラ!
仕事に関する気づきや学びも満載!!
テンポ良く快調に話が進むので、見やすい!
相変わらず、アン・ハサウェイはコメディエンヌとして魅力的!
題材が良く、いろいろな切り口で語れる!
口当たりが良く、他人にオススメしやすい!

[感想]
Filmarksで非常に評価が高く、レビュー数も非常に多い今作。
期待を膨らませて鑑賞。
結果、さくっと見られて、嫌味もなく、スッキリした味わい!!

とにかく、俳優ロバート・デニーロのキュートさが印象に残る作品だ。
デニーロと言えば、初期のタクシードライバーを代表とするバリバリの狂気的演技が印象的だが、長大なキャリアを通じてさまざまな役を演じており、極めて芸域が広い。
今作のような、「理想の70歳」の演技など、作中に出てくる慣用句で言えば、「a piece of cake」であろう。

彼が演じるベンは、「正しい行いは迷わずやれ」がモットーで、とはいえ出しゃばり過ぎることもない、理想的な人物。
あまりに人間が出来すぎて現実的ではないが、いいではないか。映画なんだから。
もともと彼に仕事を頼むつもりがなかった社長のジュールズも、彼の一つ一つの「正しい行い」に、徐々に信頼を深めていく。

ベンの言動は、仕事の極意を表現しているようでもあり、勉強になるかもしれない。
人の嫌がる仕事を率先してやること。
仲間を観察して、そのニーズを把握して、満たすこと。
身嗜みを整えること。
思いやりをもって他人に接すること。
人の話をよく聞くこと。
虚勢を張らないこと。
謙虚であること。
挑戦することを恐れないこと。
健康を疎かにしないこと。
相手が欲しい言葉を、相手が欲しいタイミングで届けること。
などなど。
現実はこう上手くはいかないが、ロバート・デニーロが演じると、あら不思議。
説得力が半端ない。

アン・ハサウェイを見ると、どうしても「プラダを着た悪魔」と比較してしまう。
若手女優だったあの頃から随分時間が経ち、彼女もオスカー女優となった。
社長として、イカしたファッションで会社を切り盛りする堂々とした姿は、女優アン・ハサウェイの現在を見るようで感慨深い。
すでに家庭も自分が創業した会社も有するジュールスの悩みは、いかに幸福な生活を維持するか?というもの。
「プラダを着た悪魔」の持たざるヒロインの悩みが「ロッキー」的だとすると、今作のジュールズの悩みは、「ロッキー3」といったところか。
個人的には、今作よりも、ヒロインがファッションを工夫して「変身」する面白さがあり、鬼上司ミランダのキャラクターが立ちまくった「プラダ」の方が好みだった。

とはいえ、今作にはもちろん「プラダ」にはない魅力がある。
それは、ベンが人生経験を武器に若者中心の社内の信頼を勝ち得ていく姿が発する、年齢を経ることを肯定的に捉えるメッセージ性にあろう。

終盤のジュールズの夫婦関連の展開は、やや好みが分かれるかもしれない。
また、高齢の男性が若い女性社長の部下となるとなれば、何らかのすれ違いや葛藤、対立が生じてもおかしくなさそうだが、今作はその辺りを綺麗にオミットしている。
また当初問題だったはずの、会社が急成長し過ぎた歪みについても、明確な解決は描かれない。
この点は、口当たりが良いと見るか、当然描くべき葛藤や対立を描けていないと見るかで、評価が分かれるかもしれない。
私としては、スッキリ爽快に感じた一方、若干の物足りなさも感じた。

[テーマ考]
今作は、色々な切り口から語り得る作品だ。
私としては、なによりも、理想の助言者について描いた作品、と見た。
ベンのジュールズや職場の仲間たちへの言動は、脚本家から見た、理想の助言者の姿に他ならない。
特に助言や行動のタイミングが適切である点がポイントではないか、と思う。
ベンがジュールズや仲間を良く観察している描写は参考になる。

今作は、世代間のギャップを題材としており、年配者も若者も、互いに良い点を活かして交流することこそが重要である、というメッセージ性がある。
また、年齢を経ることをネガティブに捉えるのではなく、知恵と経験の蓄積、人生に終わりはない、とポジティブに捉えるメッセージ性がある。
わざわざ70歳のベンの恋愛模様も、そこそこの尺を使って入れ込んでいるあたりが象徴的だ。
監督・脚本のナンシー・マイヤーズの作品の、一貫したテーマなのかも知れない。

[まとめ]
名優ロバート・デニーロのキュートな演技が印象的な、10年代お仕事もの映画の人気作。

なお、ベンと交際を始めるマッサージ師フィオナを演じるのは、公開当時還暦を過ぎたばかりのレネ・ルッソ。
マイティソーシリーズでは、ソーやロキの母親である王妃を演じていた。