マリオン

くちびるに歌をのマリオンのレビュー・感想・評価

くちびるに歌を(2015年製作の映画)
3.5
五島列島の中学校に赴任してきた訳ありな音楽教師と合唱部の青春の日々を描く中田永一の小説を映画化。合唱に全力を注ぐ合唱部員の青春と、それぞれが未来への想いと悩みに向き合う姿がまっすぐであり感動的な映画だ。ストレートな青春映画な要素も多いが新鮮な要素も多いのも好感が持てる。

今回すごく心揺さぶられたのが登場人物が抱えるそれぞれの悩みだ。彼らは起点は違えど自分が生きる意味、なぜこの世に生まれたのか分からなくなってしまうことに悩む。自閉症の兄の存在が自分の存在意義となりそれがまた苦悩にもなってしまうサトルに、最悪な父親さえいなければ母は自分を生まなくてすんだのにと心の奥底で思ってきた部長のナズナと恋人の死によってピアノが弾けなくなった柏木先生…そんな彼らが合唱でひとつになっていく内に悩みが交錯し昇華しあう。悲しみや悩みは変わらないけどそれも受け入れていこうする意志がまた美しい。そんな彼らが歌う「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の歌詞の意味も一緒に合わさって素晴らしいカタルシスへと変化する。

また自閉症への向き合い方もただのお涙頂戴ではないきちんとした向き合い方をしていると思う。サトルの生きる理由としてイキイキと等身大に描かれ、時には偏見の目で見られるという描写まであって、きれいごとだけでないというとても誠実な演出だと感じた。しかもきちんと彼の存在が後々に生きてくるのも素晴らしい。

もちろん合唱を頑張る部員達の悪戦苦闘も見物だ。先生目当てで入った男子達が真面目に練習しなくて女子達から怒られるとかよく見た光景過ぎていろいろ思い出す所がある(僕は最初から真面目でしたけど)。でもそんな彼らも一丸となって一つの曲を作り上げていく姿はとてもかっこいい。たとえどうでもいい理由で始めてものめり込めばそれは立派だ。

三木孝浩の演出も光る。五島列島の美しい風景やナズナと柏木先生がお互いに自分の悩みを打ち上げ向き合う時、柏木先生が弾くベートーベンの「悲愴」第二楽章をバックにお互いの悩みが交錯して昇華する瞬間に涙が出た。実際に中学生達が一生懸命頑張った成果がきちんと見える合唱コンクールのステージは素晴らしい。「幕が上がる」にはない魅力だ。若干盛り上げ過ぎというか嘘くさいなと思う展開も目につくが十分合格点だろう。

役者陣では新垣結衣があまり顔に表情が出ない役ながらも時折フッと笑みがこぼれる瞬間がかわいらしくもあり大人っぽい。他にも完全にコメディリリーフに徹した桐谷健太や前任の顧問を演じた木村文乃なども印象的だ。だがやはり一番の主役は中学生達だろう。「幕が上がる」はアイドル映画でもある側面からあくまでももクロにスポットしか当てられないがこの映画では合唱部に所属する生徒達全員が輝いて見えるのが大きい。個人的に指揮者をやっていたメガネっ子がすごくかわいらしいと思った。

「幕が上がる」にしろこの映画にしろ青春時代に熱中したことを思い出させてくれる映画は条件反射的に好きになってしまうと同時に自分も文化部に所属していてよかったなと改めて感じた。
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