三隅炎雄

人生劇場 新・飛車角の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

人生劇場 新・飛車角(1964年製作の映画)
4.8
シリーズ三作目、任侠映画初登板笠原和夫の、時代設定を終戦後間もなくに移したオリジナル脚本。鶴田浩二と佐久間良子の組み合わせは一緒でも単独の物語で、メロドラマ部分を引き継ぎつつ、より任侠映画色を押し出したものになっている。敗戦で戦地から帰ってきた人間たちが、吉良の仁吉縁の土地で、今度は日本人同士で憎しみ合い殺し合う。大きな戦争に否応なく巻き込まれた者たちの人生と暴力の物語で、戦中派やくざの荒んだ心と救いのない暴力を激情と共に描いて、笠原の『懲役十八年』『仁義なき戦い』の原点とも言える内容だ。

戦地から必死の思いで帰ってみると、妻は姿を消し、組は路頭に迷った女たちをパンパンにして飯を食っている。世の中の変わり果てた有様に酔ってくだを巻く鶴田浩二が面白い。女のことでメソメソ泣く『人生劇場 飛車角』『人生劇場 続飛車角』、やったことのない肉体労働のしんどさに不貞腐れズルしてばかりいる『竜虎一代』、単なる荒くれでも立派な侠客でもない、自分の弱さをさらすこのような等身大の鶴田浩二は、最初期の任侠映画以外ではなかなか見られないものだ。同じ笠原が脚本を書いた後期1970年『札つき博徒』の酔って市民に絡む鶴田は、この映画の焼き直しと言って良い。
全てを無くした失意の鶴田が東京を捨て、小さなストリップ一座と一緒に田舎を旅しながら、佐久間を探し求める姿がしみじみと美しい。長門裕之や春川ますみたちの笑顔に心救われる。任侠組織から流れ流れのストリッパーたちとの新しい疑似家族へ。がそれもつかの間の幸せに過ぎない。
最後の死闘は『酔いどれ天使』と「女殺油地獄」を掛けた凄惨極まるものだ。志村喬も出ているから、作り手はどこか鶴田任侠版『酔いどれ天使』を意識していたのだろう。終盤は鶴田浩二と佐久間良子の心の悲鳴が張り付いた痛ましい画面が続く。絶唱という言葉が浮かぶ。
それにしても一作目の高倉健の代わりに西村晃のストーカーを入れたのには驚く。西村もまた鶴田・佐久間同様に、戦争で大陸をさまよい心に深い傷を追った人間のひとりだ。彼らを組み合わせて新たな三角形とした作劇の、なんと残酷なことだろう。
#鶴田浩二#沢島忠#佐久間良子#笠原和夫
三隅炎雄

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