もやし

チャイルド44 森に消えた子供たちのもやしのレビュー・感想・評価

5.0
心の奥底に響く物語だった。
タイトルからしてガチガチのサスペンスかと思ってたが、愛情、葛藤、信用、怒り、恥などの繊細な感情を描いたヒューマンドラマのように見えた。寓話的とも言えるかもしれない。

スターリン政権下、主人公は軍の英雄レオ。国に背く者を罰していく仕事だが、そこには様々な感情がうごめく。
突然の妻のスパイ疑惑から事態は複雑な状況になっていく。そこに横たわる陰惨な連続殺人。
事件の部分より主人公の奥さんとの関係性に夢中になってしまった。そういう人も多いんじゃないかと思う。

しかし自分歴史は全然だから知らなかったが、スターリン政権って「楽園では殺人は起こらない」とか言って殺人の存在自体に否定的だったんだな。
普通に考えてバッカじゃねえのって話だが、そういう社会もあったんだな。
それを守るためにわざわざ殺人を事故に偽装したりまでして、ほんと馬鹿みたい。

冒頭数分でレオの弱さとか強さとかちゃんと見せてくれるからとても感情移入しやすかった。
愛していた妻が明かす真実。そしてそこから積み上げていく関係性が心響いた。
連続殺人犯の妙な迫力とその中に渦巻く感情の複雑さに考え込まずにはいられない。
あの同僚の最低人間ワシーリでさえも決して表面的には描かない。

当たり前のことではあるんだが、一見どのように見える人にもその人の長い人生があり、その中での何重にもよる思考があり、それによる複雑な人生観があり、唯一無二の人間であること。またどんなに酷い世の中にあっても人が抱く思いや感情それ自体はとてつもなく切実でかけがえのないものであるということ。そういうことを改めて考えてしまう映画だった。
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