転生Moljiana

野火の転生Moljianaのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
4.4
大分前に地元でリバイバル上映を視聴。その際に監督の塚本晋也さんに会って参りました!!

舞台は第二次世界大戦中のフィリピン・レイテ島。戦局は最早好転の見込みが無くなり、物資も完全に枯渇し状況は最悪に。その時の地獄絵図を自ら体験した人物・大岡昇平さんの小説の実写化

まあ最初に述べておくと塚本晋也さん、めっちゃ良い人でした。先ず雰囲気が非常に優しそうってのも有りましたが、劇場の方との対談にも真面目に答えてくれましたし、サイン会の時に少し会話した際も良い人っぷりが滲み出していました。何故かサイン会に『シン・ゴジラ』のパンフレットを持ち込んでいた人もいましたが、嫌がる事も無くサインをしていたのにも好感が持てました

映画自体はまあ何と言って良いのやら。先ずジャンルは完全な「戦争映画」
でもこの映画には鉄砲による戦闘や格好良い軍人がは一切現れません。描かれるのは飢餓の苦しさや極限状態による人間の変化、人間による人間の躊躇無き殺戮。編集や演出は無機質で音楽も不気味。一歩間違えばこれJホラーだよ!!
監督曰く、元々は商業映画として大々的な予算や上映規模を兼ね備えたかったとの事ですが、「『野火』の実写化をやりたい」と発した瞬間、門前払いを喰らう様な状況だったそうです
確かに内容は衝撃的ですし、自主映画だからこそ中盤の大殺戮シーンが撮れたのだと考えれば寧ろ良かったのかもしれませんが、この様な尖った映画、及び戦争の悲惨さを伝える映画が不遇な扱いを受けるのはやはり問題でしょう……
『永遠の0』の様にドル箱役者と感動ドラマが戦争映画にも必要だって事も勿論承知はしていますが……
監督自身も対談中、資金が集まらなかった事よりも大規模な上映を出来なかった事を悔やんでいるといった事を仰っていたので哀しい限りです

此処からは私自身凄く気になった事と監督が対談で言及していた事を何個か。今作で描かれている事は先程も述べた様に飢えの苦しさと人間の異形化で合っているのですが、それらを全てフィリピンの美しい風景と共に映し続けるのが凄く印象的でした。特に部隊から逸れた主人公が『神曲』の如く苦痛と共に彷徨い続ける下りの景色とか本当に綺麗!!それも『追憶の森』でも述べた様に、所謂「人が足を踏み入れてはいけない場所」としての美しさなんですよね
監督曰く「雄大な自然の中で人間の浅ましき愚行を描く事でその対比を見せたかった」との事で、実際その意図通りになっていると思いました。この点に関しては劇場で観る価値が本当にあったなと思いました

後、今作の特徴として、普通の戦争映画なら絶対明確にする筈な年代や国籍、場所と云った描写が凄く希薄なんですよね。これも監督曰く「字幕やナレーションを付けると観客が過去の物として安心して観てしまうから」との事で確かに妥当な選択だと思いますが、私自身何でこの部分が印象的に写ったのかと云うと、年代や場所を特定する情報を取っ払う事で映画自体がとても普遍的な物になるからかと
「全ての戦争に野火の世界は存在する」
故に私が今作を観て一番思った事はこれです。やっぱり戦争なんてやるもんじゃない。映画自体に監督のメッセージが一切込められていない為、寧ろ反戦に対するメッセージが色濃く反映された稀少な傑作でした

後、塚本晋也監督からサイン頂きました!!欲しかったパンフレットも入手出来ましたし、本当に最高でした。早く『鉄男』を見つけ出して視聴したいですねぇ……
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