熊犬

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分の熊犬のレビュー・感想・評価

3.5
【理解し難い選択の後の物語】

原題:Locke

工事の現場監督であるアイヴァン・ロックは、超大規模な現場を控えた前日にも関わらず、仕事が終わるなりロンドンに向かう高速道路に乗った。この映画は邦題の通り、この高速道路での86分間の話。

アイヴァンはサッカーを一緒に見るという家族との約束や、翌朝の重要な仕事、全てを投げ出してロンドンへと車を走らせる。

『半狂乱になる妻』、『心配する息子たち』、『無責任に仕事を投げ出した事を怒る上司』、『突然重要な仕事を丸投げされ責任の重さに苦悩する部下』、そしてもう一人…
彼らと代わる代わる電話をしながら、アイヴァンは夜のハイウェイをただ走る…全編車内のみで展開し、完全なる車内と電話の会話劇。
…な映画。

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車内の映像のみ、画として映る人はトム・ハーディただ一人。それで映画一本を持たせるって、ただそれだけで十分に凄い。トム・ハーディが凄いのもそうなんだろうけど、トム・ハーディ以外は声だけの出演なのに、何気に豪華。オリヴィア・コールマンとかトム・ホランドとか。このキャストが演じる会話劇。それで惹かれる人はもう見た方がいい。

ストーリーとしては、一時間と少しの間にどんどん追い詰められ、状況が悪い方悪い方に転がっていく男を見る流れ。大きく盛り上がりがあるでもなく、淡々とした空気で状況だけが確実に悪くなっていく…これが、なかなか味わい深いというか…徐々に全体像が見えてくる構成ではあるけど、サスペンスとかそういうのでは無い。そこは完全にポスターがミスリード。しいて言うならヒューマンドラマかな。

ある選択をした男。美学と言ってしまえばカッコいいけど、果たしてその選択の先はどうなっているのか。一見男らしくて潔くてカッコいい"選択"の先を描いた映画と思って観れば、なかなか考えさせられる物がある。一度選択してしまったら、後はもう引き返せない…そういう象徴として高速道路という舞台設定にしたのもとても良く考えられてる。果たしてラストシーンはどう受け取るべきなのか…う~む、書けば書くほど味わい深い。何気にとても優秀なスルメ映画かもしらん。

■本日のビール『Necessary Evil』
醸造所:Thornbridge (イギリス/イングランド)
イギリスのソーンブリッジ醸造所から、ネセサリーイーブル。毎年一回限定醸造で販売される、必要悪という名の濃くて強いスタウト(黒ビール)。
バーボンの樽で8カ月もの間寝かせる事で出る甘くて深い香りが、13%の度数と共に一瞬で酔わせる。長い夜にゆっくりと楽しみたい一杯。こんなの飲んだら次の日の大きな工事にも支障をきたすかもね…
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