MasaichiYaguchi

ドリーム ホーム 99%を操る男たちのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.5
2008年のリーマン・ショック後にアメリカで起きた「サブプライムローン」返済不能による自宅差し押さえが社会問題化したのを、当時、対岸の火事のように海外ニュースで見ていた記憶がある。
ニュースでは伝わって来なかったこの社会問題の実態や背景が如何なるものであったのかを、本作品を観て初めて知った。
アメリカと日本ではお国柄も住宅ローンの仕組みも違うので、この作品で描かれたような“悲劇”が同様に日本で起こるとは思わないが、日本の借金は既に1000兆円を超え、国民一人当たり800万円以上の負債を背負っている現状を考えると、とても他人事とは思えない。
主人公の無職でシングルファザーのデニス・ナッシュは、ローン返済が出来ずに“マイホーム”を失い、同居する母と愛息の為にそれを取り戻そうと奮闘する。
この作品のポイントは、”マイホーム”を取り戻そうとする主人公が、“被害者”の立場から何時の間にか“加害者”の立場に反転するところにある。
「アメリカンドリーム」というのがあるが、アメリカでは民族、出自に関係なく、勤勉と努力によって成功を勝ち取ることが出来ることを意味するが、“夢”を成就した人全てが”綺麗事”で成し得たとは思えない。
本作では、そのことを象徴するハイエナのような不動産ブローカーのリック・カーバーが登場し、そのカリスマ性で主人公にダークな影響を及ぼしていく。
原題“99 Homes”の意味するところが終盤になって分かる。
100まで残り1軒、パーセンテージで言えばあと1%が、様々な意味合いを持って我々に投げ掛けられる。
邦題のように1%が99%を支配する社会という取り方もあるが、逆に別の意味で1%によって物事を変えることが出来るかもしれないとも言える。
リック・カーバーは映画の中で家について“ただの箱”だと嘯くが、その“箱”の中身が空だったら、それは“マイホーム”でも何でもなく、本当の意味での“箱”になってしまうと思う。
決して過去の出来事とは言い切れない、現在にも繋がる社会問題を浮き彫りにしながら、本作は家族やその”入れもの”である家についてもう一度考えさせてくれる。