春九千

涙するまで、生きるの春九千のレビュー・感想・評価

涙するまで、生きる(2014年製作の映画)
5.0
死ぬために生きる旅

不毛の地で正義と信念は役に立たず、面目とプライドを曲げてでも生きねばならない

なぜ生きる、ただ生きる、生きる道があるなら

どこか違う惑星のような風景、そのあまりに厳しい環境と戦争の影響で世紀末を描くSFのよう

犯罪者の護送という単純なロードムービーのはずが、戦友と再会してから驚くほどに奥深い背景が広がりを見せる

恐ろしいほど静かな世界に溢れんばかりの情報量とテーマに頭は混乱

掟と報復の連鎖、どこコミュニティからも浮く存在、終わらない戦争、盲目的服従と盲目的抵抗

旧友とて分かり合えない絶望的境界線、教育を慈善事業だと皮肉られる始末

人種や国内の対立、そしてそれを解決する方法に対し色濃いメッセージを感じる

そして人物の設定、なぜ護送を頼まれたか、なぜ正確に銃を扱えるのか、一気に辻褄が合う

徐々にモハメドの目的を知り、モハメド自身を知っていくうちに、絆が深まり考えも変化する

このごくシンプルなストーリーと風景の中でこれだけの重厚感を出したのはさながら俳優陣の熱演のおかげである

あまりに絶妙すぎるヴィゴ・モーテンセンとレダ・カテブのキャスティング

フランス語とアラビア語を見事に話す二人に脱帽

一番印象に残ったシーンはダリュの生まれ故郷でお店に入ったところ
ベッドに座ったほんの数分でこれまでの10年の悲しみと寂しさを凝縮した瞬間が最高に切ない

最後の二人の選択、歯を食いしばってでも生きようと思わせてくれる

じっくり考え直すほど味が染み出てくる超良作でした
春九千

春九千