くりふ

チェイス!のくりふのレビュー・感想・評価

チェイス!(2013年製作の映画)
3.5
【アーミルのリフト力】

アーミル・カーンの魅力が底支えする映画と思った。彼なしでは凡庸に終わった気がする。ストイックな資質の人だから、エンタメショー仕立ての本作ではどこか弾けきれぬ後味も残りますが。

アーミルの演技って、それだけで独立した面白さがありますね。インドの男優さんあまり知りませんが、そんな感じを受けるのは、今のところ彼だけです。

アーミル抜きだと、幾つか引っ掛かった。90年代のシカゴ都市部で、インド生粋のサーカス団が自前の劇場持つって話、そもそもあり得るのだろうか?

…案の定?銀行は融資打ち切りを言い出し、それをひっくり返す為アーミル演じるサーヒルの父・団長は一世一代のショーを見せることになる…というのがイントロですが、ここでまずう~ん、と…。

で、その舞台が、なんだかショボイ。自分が銀行屋でも打ち切るかもと正直、思った。サルティンバンコもびっくりカトリーナ・カイフ豪華絢爛ショーでも見せてくれたら、銀行ダメじゃんと思えたのですが…。

さらに、どうやカト姉ちゃん、一晩つきおうたら金貸すで…と迫られ泣く泣く応じるも、耐えきれずサーカスの名花は自殺してしまい…なんてコテコテ展開だったら銀行悪役ロックオン、とすぐ納得できたのですが。

銀行の肩持ちたかないですが、本作の事情なら真面なビジネスの範疇。不正でも卑怯でもない。サーミルの気持ちもわかるが、その後の復讐が逆恨みに見えてしまう。それに銀行ああしちゃったらまた自殺者が出るぞ(苦笑)。

で、そもそも父ちゃんの最終決断も問題で、子供の前であれはないだろ。犯罪に走れと言ってるようなものじゃないか(笑)。

インド娯楽映画はモラルよりパッション、だとはわかります。でも本作は燃えが弱くて有無を言わさぬ力がない。バイクアクションより復讐の炎にガソリンつぎ込んでほしかった。

が、これもアーミルの資質に因るところが大きいのでしょうね。その視点からは、小奇麗にまとまっているとは思います。

見せ場としては、金庫破るところ一切見せないってのが凄い(笑)。それで銀行強盗の映画成立させちゃうのが本作イチのトリックかも。バイクもあくまで「逃げ足」を見せるものですね。

本作は、アーミルが浮いたりぶら下がったり落ちたりの不安定場面が印象的ですが、最後までただの犯罪者賛美にしない点はバランスいいと思う。そんな落下男なのに、映画全体はアーミル力が下からリフトしていると感じられるところがまた凄い。

カトリーナさんは艶やかでしたが、役柄的には添え物ぽく終わっちゃって残念。あと彼女のガタイだと、サーカスで宙を舞うには重そうだなあ、と感じてしまった。

メット脱いだら金髪ふぁさ、のシカゴ女刑事はまったく見せ場なかったですね。ふぁさがムダじゃん。

振り返るとやっぱり、あの「トリックの演技力」含め、アーミル映画としての面白さが第一、と思います。ダンスシーンも、冒頭の彼のタップが斬新で、その後の展開も象徴しているし(やはりどこか昏いし)、一番よかったですね。

<2015.1.4記>
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