『東京物語』で語られることがなかった原節子の普段の生活や、夫が死ぬ前の笠智衆&東山千栄子との関係はどうだったのかなどを補填するように描いた一種のアンサー映画。ちなみに荒木太郎監督は以前も『東京物語』をリスペクトした映画『ねっちり娘たち まん性白濁まみれ』を作っているが、こちらは『東京物語』の元ネタだと言われる『明日は来らず』に近い。そして両方ともある程度成功しているのが凄い。ちなみに旦那はこの映画の撮影前に死亡した野上正義で、夫を失った妻が息子に会いに東京へ向かうという物語になっている。


原節子に該当する未亡人役は愛田奈々で、上司との不倫や生活にくたびれた女性を表現し実際の紀子はもしかしてこうだったのかも…と思わせる難しい役どころを好演している。東山千栄子に相当する姑役の稲葉良子の演技も素晴らしく、この二人の静かな演技の絡みがピンク映画と『東京物語』という相反する二つの要素を両立させることに成功している。
あと60分というピンクの制約を考えて、敢えて他の兄弟のエピソードを省略して過多な味わいになることを避けた演出もgood。それでいて他の兄弟の言動やちょっとしたやり取りで彼らがどういう人物かを描写する手腕に唸らされる。

現実の辛い状況をきちんと描きつつ、この映画の二年前に起きた3.11の大地震、そしてその地震にも負けず経営される東北の映画館の出来事を交えてそれでも前を向いて生きていこうというメッセージに泣きそうになった。つらい中でも小さな希望を胸に生きる愛田、そして家に戻って自由な世界へ羽ばたかせるように金魚を川へ放つ稲葉で締め括られるエンディングもどんな中でも生きることの大切さを伝えられているようで印象的。

「新・新・東京物語」という原題のがぴったりくるな

ストーリーのさみしさ切なさの中にちょっとした救いを（伏線で）もってきてる。荒木監督のピンク映画は物語の筋書が心に沁みいります。