福井康之

駆込み女と駆出し男の福井康之のレビュー・感想・評価

駆込み女と駆出し男(2015年製作の映画)
4.8
天保十二年(1841年)
質素倹約令が発令された江戸時代後期。末端の庶民の暮らしがますます苦しくなっていったころ、せめてもの娯楽に、曲亭馬琴の『八犬伝』完結を楽しみにしていた頃の話。
この時代、結婚の理由も様々だが、一度結婚してしまうと妻からの離縁が不可能で、どんなに夫の側に婚姻関係を継続しがたい理由があっても、妻はひたすら耐えるしかない。

鉄煉りとして鉄工所で働くじょごの夫は完全なヒモ状態で自分は働かずに、じょごの稼ぎで遊び回っていた。

「右へ行って六郷で飛び込むか…左へ行って東慶寺に駆け込むか…それとも、今来た道を戻るがええか…答えてくれろ。」

時を同じくして、日本橋の豪商、堀切屋三郎衛門の妾であったお吟も、離縁を決意し東慶寺を目指していた。

「とんだ性悪女狐にひっかかったもんだ。」

東慶寺へ駆け込み離縁が成立するまでには、まず御用宿にて身辺の聴衆を受ける。
その後、東慶寺へ入り2年間の修行を経て初めて離縁が成立する。

「素晴らしいのは"すぼらし"とは違います。」

この御用宿の主人の甥であった信次郎は戯作者を夢見る医者の駆け出しとして御用宿で世話になっていた。

「佐助稲荷での奉納野外稽古に加わったのは東慶寺が近いと聞いたからじゃ。」

じょごとお吟が駆け込んだ後、しばらくして戸賀崎ゆうが東慶寺へ駆け込んでくる。

「東慶寺は武士の妻女の駆け入りは認めておりませんよ…オヤマに入りたければ、武家の気位はドブにお捨てなさいまし。」

ゆうは夫を殺した道場破りに無理やり結婚させられ、復讐を誓っていた。

「世ん中には、つらい目におうた女たつがようけえおるもんですね。」

とにかく俳優さんたちの演技がとてつもなく"素敵"です。
ストーリーも思っていたものと違って、様々な事情で縁切寺へ駆け込む女性と、その縁切寺の中で修行される女性たちの姿、追ってくる男たちとの御用宿での立回りや、はたまた奉行所からの密偵まで…原田監督ならではのリアリティがこの映画でも炸裂してますが故に、会話が聞き取りづらいですが、飽きさせない展開と俳優さんの活きた演技に満足です。
会話の内容を知りたい方は日本語字幕をつけて観ることをオススメします。

あと個人的に、お吟の本当の駆け込み理由と、じょごとの友情が泣ける。

「べったべった、だんだん。」
福井康之

福井康之