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ある神父の希望と絶望の7日間のtakaoriのレビュー・感想・評価

4.0
2023年308本目

Disney+ で見放題となっているが、2023年11月現在では見られなくなっている。Amazon Primeは300円でレンタル可能。いつものことながらFilmarksは情報の更新が遅い。ちゃんと仕事しろ💢

傑作『イニシェリン島の精霊』の関連作品として押さえておきたい一作。監督はマーティン・マクドナーの兄ジョン・マイケル・マクドナー。ブレンダン・グリーソンのキャスティング、その飼い犬との関わり、キリスト教のモチーフ、風光明媚なアイルランドのロケーション、そして核心となる同性愛の問題など、本作が与えた影響が大きいことが見てとれる。

タイトルのCalveryは、キリストが磔刑に処された「ゴルゴダの丘」のことであり、「受難」という意味を表す。まさに主人公となる善良な司祭ジェイムズの受難の物語である。評価が低いのは、結末があまりに理不尽で受け入れがたいが故の戸惑いだろうが、実にキリスト教的なテーマの物語である。ジェイムズと娘との会話で、キリストは「自殺」をした者として扱われるが、彼自身の迎える運命がまさにそのようなものであると重ねられている。そもそも最初の殺害予告のシーンで、ジェイムズには犯人が誰か声で分かっていたはずだが、彼はその運命をただ受け入れた。そこで、「残された者は?」「私の命は私のもの」という父娘の会話が、ラストシーンで思い起こされることになる。

「絶望するなかれ 1人は救われた 慢心するなかれ 1人は地獄に落ちた」冒頭にあるこの聖アウグスティヌスの引用は、結末から振り返って見た時に「誰が救われ、誰が地獄に落ちた」のかを考えさせる。「いい人生を送っていない人もいます 愛も感じずに」という女性の話も重要。結末から見ると伏線の張り方が上手い。「救済」がテーマであることが示される。
ブラックユーモアも光っており、暗い物語にささやかな笑いの彩りを添えている。「双極性障害か乳糖不耐症のどちらかです」「エイズになるのがおちです」「何十億年もね」「(教会を嫌ってる者は)国民の半数ですね」「司教の密室で密にやってたんだ (I was sucking the prick of a bishop in this bishopric)」など、弟マーティンともどもマクドナーはセンスが良い。
金持ちの家にある、彼が小便をかける「意味のわからない絵」は、ホルバインの "Ambassadors" で、これは絵の下にあるオブジェクトが、斜めから見ると髑髏に見えることで有名な絵。物事は見る角度で違って見えること、そして「メメント・モリ」の精神を教える絵である。
劇伴がとても少ない映画だが、それだけに音楽が入るシーンも印象的。パブで陽気なアイリッシュミュージックがかかるシーン(しかしその直後に教会が燃えるので、コントラストがまた際立つ)、そしてお気に入りはジェイムズがウイスキーとビール(ギネス)を浴びるように飲むシーン。ここでかかる曲はボブ・ディランを思わせるタウンズ・ヴァン・ザントの "Snake Song" で、彼はアルコール依存症だったそうな。
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