YokoGoto

名もなき塀の中の王のYokoGotoのレビュー・感想・評価

名もなき塀の中の王(2013年製作の映画)
3.7
『大人の男性の定義』とは、さしづめ“怒りのコントロールができる人”ということになるのだろう。女性にやさしく紳士的で、穏やかな人みたいに、取り繕えば簡単に演ずることのできる定型句は、ほとんどあてにならず、『怒り』という感情にこそ、人間の本性がでてしまう。

それをいうなら『女性も同じだろう』と言われるだろう。
まさに、そうだ。女性だって同じこと。人間の性(さが)の中で、手に負えない感情こそが『怒り』だから。

しかし、女性の場合は、肉体的な差もあり、怒りの発散も『ヒステリック』程度に処理される。反して、男性の場合は、暴力性という問題行動として現れ、周りを破壊してしまうから問題なのである。

いわば、男性というのは子供の頃から衝動的な怒りとの闘いだ。
そのコントロールができるようになり、やがては自己肯定という武器をまとうことで、怒りの衝動を俯瞰で見下ろすことができるようになるのだろう。

しかし、それができるようになるためには、絶対的な理解者が必要で、無償の愛で包まれる体験が必要だ。

本作、『名も無き塀の中の王』は、そんな思春期の怒りをコントロールできない少年の物語。

母をしらず、父親は長い間刑務所暮らし。
そんな家庭環境の中、罪を犯し少年院にいた19歳の主人公が成人刑務所に移送され、様々な現実に直面するストーリー。その刑務所では、服役中の父親と対面する。

イギリスの刑務所といえば、映画『父の祈りを』を観た時になんとなく知ったのだが、日本のそれとは若干異なり、意外にも自由で驚いた。

受刑者の人種も様々で、刑務所内での危険も多い。刑務所内の話だけで、十分物語になるから面白い。

主人公役のジャック・オコンネルは、ほぼ初めて演技を観たような気がするが、なかなか良い。普通の青年なのに、キレると見境がなく暴力的なのだが、どこか瞳の奥に寂しさをまとっている感じが伝わってきて可愛らしくもある所が不思議。

まるで、感情のコントロールのできない子どものようだが、かすかに、そこに厚生の希望を失わせない演技が印象が良かった。

ほぼ刑務所内での物語なので、塀に閉ざされた中で、主人公がどんな感情に触れ、成長していくかが鍵になる。物語の中で、ほとんど結論は見いだせないものの、希望のかけらを感じさせるラストが、なかなか良かった。
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