カイ

オデッセイのカイのネタバレレビュー・内容・結末

オデッセイ(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

原作を既に読んでいたので楽しみにしていた映画。リドリー・スコットが監督ということで、シリアスな映画に改変されていないか不安に思いながら鑑賞した。結果としてはそれは杞憂に終わった。ユーモアは損なわれていなかったし、火星や宇宙のビジュアルは近年の宇宙映画の中でも群を抜いた美しさだった。音楽の使い方も原作を忠実になぞっており、文句の付け所は無い。主演のマット・デイモンの演技は僕の脳内のワトニーから1mmもずれていないほどと言っていい程完璧で、助演俳優たちもそれぞれが素晴らしい演技だった。正直文句の付け所が無い映画だった。
しかし、それは「従来のSF映画の中で」という意味である。原作「火星の人」は近年のSF小説の中ではピカイチの出来を誇っている。緻密に練られた宇宙での生活とワトニーのユーモア、そしてNASAの職員たちの尽力といった要素が混然一体となったこの作品には「10年に一度」と言える魅力がある。今回映画を観て思ったのは「あまりにも時間が足りない」ということだ。特にこうした原作の要素を余すことなく描こうとして、肝心のワトニーのパートが割りを食ってはいなかっただろうか?情報の多さも足枷になっており、仕方のない事とはいえそれをキャラクターに説明させてしまっている。また、ユーモアの部分も中途半端で振り切れていない。(特に「おっぱい」顔文字を削っていたのは許し難い)そしてこれこそが問題の核になっている。監督が意図せずかはわからないがこの映画は良くも悪くも「万人向け」の至極真っ当な正統派SF映画に終始してしまっている。それが悪いと言っているのではない。しかし「火星の人」はSF映画の最高峰に挙げられるポテンシャルがあったのだ。残念ながら本作はその域までには達しなかった。
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