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帝国オーケストラのodyssのレビュー・感想・評価

帝国オーケストラ(2007年製作の映画)
2.0
【旧式のドキュメンタリー】

ベルリンフィルのナチ時代を扱ったドキュメンタリーですが、どうも見ていて物足りない気がしました。

理由ははっきりしています。フルトヴェングラーなど個々の音楽家のナチや時代との関わりを突き詰めていないからです。ただ漠然とあの時代のフィルムを流したのでは、本当の意味で時代の真実に迫ることはできません。

このテーマではすでに書物がかなり出ています。フルトヴェングラーとカラヤンとナチとの三角関係を詳細に追った新書も日本語で読めるのです。そういうなかにあって、こうしたドキュメンタリー映画にどれほどの価値があるのでしょうか。スター指揮者でなく個々の団員に光を当てるということにしても、もっと徹底して追いかけないと説得力が出てきません。例えばゴールドベルクのたどった運命にしても、最期を日本で迎えた事情など、いくらでも追求すべき点はあったはず。

また、ナチそのものの評価も、戦後60年以上たった今では距離を置いて冷静に考えられるはず。ナチだから悪い、では済まない部分があるのです。映画でも『アンナとロッテ』のように、新時代の価値観をナチが或る程度すくい上げていたことを暗示する作品も出ている。そこまで時代の認識は深化しているのに、ベルリンフィルの団員にもナチ党員がいたと言うだけでは何事かを言ったことにもなりません。そういう意味でも、旧式のドキュメンタリーだという印象しか浮かばない作品だと思う。

そうなった根本的な理由は、ドイツで作られた限界ということでしょう。ドイツでは今でもナチがタブー視されている。ドイツでナチを部分的にでも再評価しようものなら叩かれる。そうした環境が、掘り下げた映画作りを妨げているのは、皮肉なことだと言わねばなりません。
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